あの花は誰に会いに行くんだろう

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2.  その日の僕は、蒸し暑さにやられてどうかしていたのかもしれない。  僕は時計を凝視する。大学の入学祝いにもらったハミルトンのジャズマスターには【WED】と確かに表示されていた。  今日は平日。ならどうして、『花を愛でる人』が隣に座っているんだ?  混乱する僕をあざ笑うかのように、その人は僕と同じ汐入駅、横須賀で降りた。ハードケースを持つ手にみるみる汗が滲んでいく。  追いかけるべきか? いや、追いかけたら僕は正真正銘のストーカーじゃないか?  とりあえず見失わないようにと追っていくうちに、とうとうお店に入ってしまった。そこは僕の行きつけのカジュアルレストラン『YUMMY BOY』だった。 「あら、いらっしゃい!」  出迎えてくれた店の奥さんに会釈を返す。隣には花を愛でる人がいた。  彼女と出会ってから約一ヶ月。僕たちは初めて目が合った。  僕はBLTサンドを注文した。出来上がりを待つ間、店内に流れる洋画を観るふりをして耳をそばだてる。 「お引き受けいただき、本当にありがとうございます」  初めて聞くその人の声は、遠くで鳴いてるカモメみたいだった。 「ヒアリング・ブロガーの白河穂波と申します」  シラカワホナミ。なんて美しい響きだろう。だけど聞き慣れない『ヒアリング・ブロガー』とは、一体なんだろうか。
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