あの花は誰に会いに行くんだろう

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 その人――白河さんは、一眼レフカメラを取り出し、店内に向けてシャッター音を鳴らす。グルメかレジャーの取材だろうか。しかし聞こえてくる質問は、およそ想像とはかけ離れていた。 「お店をやっていて一番の喜びはなんですか?」 「この街のどんなところが好きですか?」  白河さんは返される答えの一つひとつに熱心に頷き、メモを取っていた。  運ばれてきたBLTサンドを食べていると、奥さんがやってきて、なぜか僕の向かいに白河さんを座らせた。 「リョー君、まだ時間あるよね? 横須賀のいいところ紹介してあげてよ」  動揺した僕が咥えていたトマトを落とすと、白河さんはくすりと笑った。 「リョー君さん、初めまして。私、白河と申します」  知ってます、聞いてました。それに君にさんをつけるなんてかわいすぎます。僕は沸騰する脳内と闘いながら、努めて冷静に「初めまして」と返した。  ちなみに横須賀の人たちは、僕を『ヨシ』ではなく『リョー』と呼ぶ。半分アメリカでできているといってもいいこの街では、響きのいいニックネームが好まれるのだ。
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