あのとき

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夕焼けを描くのが好きだった。 公園に椅子を置いて、キャンパスに描いていくのが毎日の日課だった。 美大を卒業して、もう5年目になる。 帰り際、仕事から帰るサラリーマンを見て、ひどく蔑んだりもした。 自由のない世界で生きて、本当にやりたいことをせず、生きている彼らは、まるで檻に囚われた囚人のように見えた。 自分は、ああはならない。好きなことをしていけばいいじゃないか。 誰に縛られることもなく、夕焼けの色彩に頭を悩ませていればいいじゃないか。 夕焼けが、全てを包んでいく。 その瞬間、すべての景色が橙色に染まる。 その瞬間を写真よりも美しく捉えてみたい。 いつかそんな絵を描いてみたい。 サラリーマンも自由な絵描きも、小さな子どもも、年老いた老夫婦、孤独な青年、全てを包み込んでしまうようなあの橙色を、いつか描いてみたい。 そんな夢を抱きながら、布団に入ると、何度も夢の中で絵を描き上げることができた。 何枚も、何十枚も、何百枚も、夢の中で描く絵には、美しさがあった。
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