俺達の鯉のぼり伝説

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「広樹広樹広樹! 発見、大発見!!」 奇声を発しながら隆が、ホームルームの終了を待ちかねたように1年2組の教室に飛び込んで来る。 「1年1組の隆くん、いつも鬱陶しいが一応聞いちゃろう。 何が大発見なん?」 幼稚園以来の腐れ縁を、見事に高校まで引きずってきた幼なじみにウンザリしつつ、 首だけドアに向けて尋ねる俺。 「ウチのクラスに、文芸部に入ってくれそうな奴がおった!」 「へぇ!! そりゃまた奇特な」 この春めでたく山口県立周陽工業高校に入学したばかりの俺達は、 クラスは違うが同じ機械科だ。 体育会系の部活が幅をきかせるバンカラ工高で、俺達がソッコー入部したのは、『文芸部』。 昔から推理小説マニアの俺はともかく、中学まで野球小僧だった隆の入部は意外だったが。 部員は、新入生の俺達を除けば三年生三人のみ。 このまま三年生が卒業すれば同好会に格下げ必至の、風前の灯の弱小部である。 入部するなり、先輩達から、他の新入生を勧誘せよ、と厳命を受けたばかりなのだ。 「部活に連れて行こうと思うて、引っ張って来たんちゃ。 林、林、こっち!」 「……どーも」 おずおずと顔を覗かせたのは、ひょろりと長い、チャラい格好の男。 「……どーも」 胡散臭さを感じながら、一応挨拶を返す。 「……」 「二人とも人見知りしちゃイヤ~ン! たかこ、泣いちゃうから♥ 広樹くぅ~ん、もう一声!」 「……ワシ、高橋」 「……林っす」 「……」 おちゃらけで乗り切ろうとした隆が、さすがにがっくりと肩を落とした。 「まぁええ、早速部活じゃ。まず今日は見学じゃの、林」 「今日は部活休みじゃろ。三年生の進路の個別指導で図書室使うけぇ」 「あ!! そうじゃった」 我が文芸部の活動場所は、図書室なのだ。 「……じゃあワシ、帰るけぇ」 「ちょ、待て待て林、せっかくじゃけぇ、新入生三人で先に友好を深めようではないか! なあ林くん広樹くん」 お調子者の隆に背中を叩かれ、気乗りしないまま返事する。 「……まあ、ええけど」 三人で校舎を出ると、校舎から校舎へと渡されたロープに、何十匹もの鯉のぼりが翻っていた。 ゴールデンウィーク前の青空に、爽やかな初夏の風を含んで、気持ちよさげに泳いでいる。 郊外の高台に建つ我が工高に泳ぐ鯉のぼりの大群は、ふもとからも良く見えて、 町全体の春の風物詩だ。 俺達は思わず足を止めて見惚れた。image=500136360.jpg
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