20人が本棚に入れています
本棚に追加
「広樹広樹広樹! 発見、大発見!!」
奇声を発しながら隆が、ホームルームの終了を待ちかねたように1年2組の教室に飛び込んで来る。
「1年1組の隆くん、いつも鬱陶しいが一応聞いちゃろう。
何が大発見なん?」
幼稚園以来の腐れ縁を、見事に高校まで引きずってきた幼なじみにウンザリしつつ、
首だけドアに向けて尋ねる俺。
「ウチのクラスに、文芸部に入ってくれそうな奴がおった!」
「へぇ!! そりゃまた奇特な」
この春めでたく山口県立周陽工業高校に入学したばかりの俺達は、
クラスは違うが同じ機械科だ。
体育会系の部活が幅をきかせるバンカラ工高で、俺達がソッコー入部したのは、『文芸部』。
昔から推理小説マニアの俺はともかく、中学まで野球小僧だった隆の入部は意外だったが。
部員は、新入生の俺達を除けば三年生三人のみ。
このまま三年生が卒業すれば同好会に格下げ必至の、風前の灯の弱小部である。
入部するなり、先輩達から、他の新入生を勧誘せよ、と厳命を受けたばかりなのだ。
「部活に連れて行こうと思うて、引っ張って来たんちゃ。
林、林、こっち!」
「……どーも」
おずおずと顔を覗かせたのは、ひょろりと長い、チャラい格好の男。
「……どーも」
胡散臭さを感じながら、一応挨拶を返す。
「……」
「二人とも人見知りしちゃイヤ~ン! たかこ、泣いちゃうから♥
広樹くぅ~ん、もう一声!」
「……ワシ、高橋」
「……林っす」
「……」
おちゃらけで乗り切ろうとした隆が、さすがにがっくりと肩を落とした。
「まぁええ、早速部活じゃ。まず今日は見学じゃの、林」
「今日は部活休みじゃろ。三年生の進路の個別指導で図書室使うけぇ」
「あ!! そうじゃった」
我が文芸部の活動場所は、図書室なのだ。
「……じゃあワシ、帰るけぇ」
「ちょ、待て待て林、せっかくじゃけぇ、新入生三人で先に友好を深めようではないか!
なあ林くん広樹くん」
お調子者の隆に背中を叩かれ、気乗りしないまま返事する。
「……まあ、ええけど」
三人で校舎を出ると、校舎から校舎へと渡されたロープに、何十匹もの鯉のぼりが翻っていた。
ゴールデンウィーク前の青空に、爽やかな初夏の風を含んで、気持ちよさげに泳いでいる。
郊外の高台に建つ我が工高に泳ぐ鯉のぼりの大群は、ふもとからも良く見えて、
町全体の春の風物詩だ。
俺達は思わず足を止めて見惚れた。
最初のコメントを投稿しよう!