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先生の話によると、
鯉のぼりを町のシンボルとして、地域おこしに使おうという話が進んでいるらしい。
空を泳ぐ工高の鯉のぼりに加え、
町内を流れる穂波川に鯉のぼりを泳がせて、
町の名物にしよう、という企画が上がり、
そのための鯉のぼりの入手に、工高も協力することになった、とかなんとか。
工高の卒業生は、進学組以外ではあまり都会に出て行く奴はおらず、
たいてい地元近くで就職する。
そのせいか、我が工高と地域のいろんな組合や商工会議所なんかとは、
学校行事の後援を受けたり、
逆に学校から実習と称して繁忙期に生徒を派遣したりなど、常日頃の交流があり、
地域に貢献することが学校のモットーのひとつだ。
確かにもう高校生だし、鯉のぼりを自宅で揚げてもらって喜ぶ年齢は過ぎたかもしれないが、
……でも鯉のぼりが空を泳ぐのを見ると、何かワクワクするんだよな~。
鯉が川を泳いでたって、当たり前だろ?
隆が林に尋ねる。
「お前んち、鯉のぼりは?」
「……あるけど、揚げたことないけぇ、寄付しようと思うちょる」
「ならその前に、ウチに持って来いぃや。
一回くらい空を泳がしちゃれぇよ、ウチのと一緒に揚げちゃるけぇ」
「……うん」
林は、ちょっとはにかんだように頷いた。
豊海で三人とも電車を降りる。
隆の家は歩いてすぐだ。
「ただいまー!」
「お邪魔しまーっす!」
靴を脱ぎ捨てスタスタ上がる隆のあとについて、
勝手知ったる何とやらで、どかどか上がり込む俺。
「え……お、お邪魔します」
林は、か細い声で挨拶したものの、そのまま玄関先で首を伸ばし、奥を窺っている。
「林、上がれぇや、こっち」
隆が手招きして、ようやく林は、奥を気にしながらもいそいそと靴を脱ぎ、
オマケに俺達の靴までピシッと揃えている。
「隆ー? 帰ったんー?
ちょっと居間に来てぇー!」
隆の母親の声だ。
二人でひょい、と居間を覗くと、そこには、
吹き流しと鯉のぼりが所狭しと広げられ、
その真ん中に、
緋鯉の口に足から身体を突っ込み、腕と顔だけを出すという、
世にも珍妙な格好で横たわる、
隆の母ちゃんがいた。
「お帰り~二人とも!
ね、ね、どうコレ?」
上半身を起こし、セクシーポーズをとる彼女。
「……は?」
「『は?』って、反応悪いねぇ、ひろちゃん。
広樹よ広樹よ広樹さん、
世界で一番キレイなのは、だあれ?」
「……はぇ!?」
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