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 午後になっても状況は変わらなかった。4時を過ぎて日が陰ってきたため撤収しようとしていた時、香織たちの前に1人の人が現れて言った。 「1つもらえませんか?」 「ありがとうございます…、あっ」  香織も健太も、目を丸くした。そこに立っていたのは、あのバルーンアートのおじさんだった。 「あの、いつもバルーンアートを配ってらっしゃった方ですよね?」 「そうですよ」  健太が問いかけると、おじさんは表情を変えずに答えた。 「最近お見かけしなかったので、やめてしまわれたのかと思ってました」 「お恥ずかしいことに、指を骨折してしまって、しばらくバルーンアートを作れなかったんですよ。ようやく動かせるようになってきたので、そろそろ再開しようかと思ってたところです。今日たまたまここを通りかかったら、学生さんたちがおもしろそうなことをやっていたので、立ち寄ったんです」 「そうだったんですか…」   どうやら、香織があれこれ考えていたのは杞憂だったようだ。 「あのっ」  香織が上ずった声で言ったので、おじさんと健太が同時に香織の方を向いた。 「以前アタシ、急いでいてここでおじさんにぶつかって、すごく失礼なこと言ってしまったんです。それで…、それで…、ごめんなさいっ!!!」  香織は深く深く頭を垂れた。おじさんは、文字通りポリポリ音を立てて頭をかいた後、言った。 「いやあ、そんなことあったかなあ。これやってるとさ、そういうことってよくあるんだよ。いちいち気にしてられないっていうか」  そう言っておじさんは「ハハハ」と声を上げて笑った。香織は梯子を外されたような気分になって、緊張の糸が切れ、口をぽっかり開けたまま黙り込んでしまった。やり取りを見ていた健太が、我に返ったように切り出した。 「僕たち、今日ここで折り紙の作品を配ろうとしてたんですけど、全然振り向いてもらえなくて…、どうしたらいいのか、教えてもらえませんか?」 「そんなこと言われてもなあ。私だってここでバルーンアート作ってたけど、もらう人なんてほとんどいなかったよ」  香織と健太は顔を見合わせた。おじさんは、健太の顔を見て、「そういえば君は、何回か持って行ってくれたよね」と付け加えた後、こう続けた。 「じゃあ逆に聞かせてもらえるかな。君たちはこの作品、楽しんで作ったかい?」
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