0人が本棚に入れています
本棚に追加
4
午後になっても状況は変わらなかった。4時を過ぎて日が陰ってきたため撤収しようとしていた時、香織たちの前に1人の人が現れて言った。
「1つもらえませんか?」
「ありがとうございます…、あっ」
香織も健太も、目を丸くした。そこに立っていたのは、あのバルーンアートのおじさんだった。
「あの、いつもバルーンアートを配ってらっしゃった方ですよね?」
「そうですよ」
健太が問いかけると、おじさんは表情を変えずに答えた。
「最近お見かけしなかったので、やめてしまわれたのかと思ってました」
「お恥ずかしいことに、指を骨折してしまって、しばらくバルーンアートを作れなかったんですよ。ようやく動かせるようになってきたので、そろそろ再開しようかと思ってたところです。今日たまたまここを通りかかったら、学生さんたちがおもしろそうなことをやっていたので、立ち寄ったんです」
「そうだったんですか…」
どうやら、香織があれこれ考えていたのは杞憂だったようだ。
「あのっ」
香織が上ずった声で言ったので、おじさんと健太が同時に香織の方を向いた。
「以前アタシ、急いでいてここでおじさんにぶつかって、すごく失礼なこと言ってしまったんです。それで…、それで…、ごめんなさいっ!!!」
香織は深く深く頭を垂れた。おじさんは、文字通りポリポリ音を立てて頭をかいた後、言った。
「いやあ、そんなことあったかなあ。これやってるとさ、そういうことってよくあるんだよ。いちいち気にしてられないっていうか」
そう言っておじさんは「ハハハ」と声を上げて笑った。香織は梯子を外されたような気分になって、緊張の糸が切れ、口をぽっかり開けたまま黙り込んでしまった。やり取りを見ていた健太が、我に返ったように切り出した。
「僕たち、今日ここで折り紙の作品を配ろうとしてたんですけど、全然振り向いてもらえなくて…、どうしたらいいのか、教えてもらえませんか?」
「そんなこと言われてもなあ。私だってここでバルーンアート作ってたけど、もらう人なんてほとんどいなかったよ」
香織と健太は顔を見合わせた。おじさんは、健太の顔を見て、「そういえば君は、何回か持って行ってくれたよね」と付け加えた後、こう続けた。
「じゃあ逆に聞かせてもらえるかな。君たちはこの作品、楽しんで作ったかい?」
最初のコメントを投稿しよう!