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 おじさんに突然そう聞かれた香織と健太は、自分たちが作品を作っている光景を振り返って、ハッとした。1,000個作るという目的を達成することが目的になって、作品作りが単なる作業にすり替わってしまっていた。香織は、折り紙を折る健太のニコニコした表情が素敵だと思っていた。その表情は、上機嫌にバルーンアートを作るおじさんのそれとも重なっていた。でも、この作品たちを作っている時の健太は、全然楽しそうではなかったことを、今更意識した。 「楽しみながら作っているからって人が集まるとは限らないかもしれない。現に私がそうだったからね。でも、それってそこまで重大なことじゃなくて、やっぱり自分がやっていて楽しいかどうかが、一番大事なんじゃないかなあ」  香織は、健太の、「あのおじさんもおれらとおんなじ」という言葉を思い出した。そうだ、折り紙を作るのは、楽しいことだ。自分が楽しんで作らなければ、人に喜んでもらうことなんてできない。そのことに気づいた時、香織は自然に口に出していた。 「おじさん、一緒に作品、作りませんか?おじさんはバルーンアートで、私たちは折り紙。今度一緒にここで、コラボしましょうよ!」 *  おじさんと折り紙サークルのコラボ、その当日。今日は作品を最初から作っておくのではなくて、おじさんのように実演したり、あるいは来てくれた人に折り紙やバルーンアートを体験してもらったりすることにした。作ることは、楽しいことだ。もう一度その原点に立ち返りたい。そしてそれを、多くの人に知ってもらいたいと、香織は思う。  赤い電車が行き交い、ゆずの「夏色」がホームに鳴り響く。香織はメロディーに合わせて口ずさみながら、階段を駆け下りた。
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