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 サークルの同仲間たちが駆け寄ってきたと思ったらすぐに部屋の奥に駆け足で戻っていった。もしやと思った香織は、慌ててその後を追う。  教卓の目の前、中央最前列の席の周りには、ちょっとした人だかりができていた。その輪の中心に、得意げにはにかむ健太がいた。 「あっ、香織!見ろよ!」  高々と掲げた右手には、健太が好きなゲームキャラクターの折り紙作品が握られていた。緑の帽子、黄色い髪、手に持つ剣や盾など、精巧に作られている。 「マジかー、今回はアタシの負けだわ」  香織は悔しそうに肩を落とす。  健太こと早川健太は、折り紙サークル内での香織のライバル的存在だ。去年の4月に加入して以来、お互いに競うように作品を作る中でメキメキと上達し、1年経った今では同期で群を抜くどころか、先輩たちも一目置くサークル内の二枚看板のようになっていた。今回も、どちらが先にみんなを驚かせる作品を作れるかで勝負していたのだが、香織が健太に先を越される形となった。  同じ時期に入って競い合って成長してきた香織と健太だが、タイプは全く違った。感覚重視で、直感を頼りに折っていく香織とは対照的に、健太は地道に練習と経験を積み重ね、コツコツ上達してきた努力家だ。 「香織はまだ完成してないのか?」 「う…、完成どころか何作るかすら決まってなかった」 「いつも言ってるだろ、計画性が大事なんだって」  フンと鼻を鳴らした健太に、香織は反論のしようがなかった。基本に忠実に、そして計画的に物事を進められる健太が少し羨ましくもあった。 「でも何作ったらいいかわかんなくて悩んでた健太に、好きなキャラでも折ればって言ってあげたのアタシだよね」 「おい、負け惜しみかよ。作ったもん勝ちだぞ」  おなじみの言い争いが始まって、周りのメンバーは苦笑いしていた。 *  健太の自宅は、京急線屏風ケ浦駅が最寄りだ。上大岡まで地下鉄に乗って、京急に乗り換えるところまでは香織と同じ。そこから香織は横浜・品川方面に、健太は御崎口方面に乗り換える。サークルのある火曜と金曜、二人は嫌でも一緒に帰ることになる。 「見たか?あのおれの作品を見たみんなの顔。やっぱあれだよなあ」  京急への乗り換え口へ向かいながら、健太が無邪気に笑いながら言った。 「それさっきも聞いたよ」 「いや、でもさ、あの顔見ると、また作りたい、次は何作ろうかな、ってなるんだよ」 「だからわかるってば」
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