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 健太は、自分の作品で人を喜ばせたい、笑わせたい、驚かせたいという気持ちが誰よりも強い。その気持ちは、香織にもよくわかる。だからこそ、健太には負けたくなかった。そしてだからこそ、その気持ちをブレずに持ってひたむきに努力する健太を尊敬もしていた。  階段を登り、京急百貨店の入り口と京急の改札に挟まれた例のスペースに出た時、香織は気づいた。 「あ、この時間はやっぱりいないんだ」 「ん?」 「午前中さ、この場所でバルーンアート作ってるおじさんがいるんだよね」 「あ、おれも見たことある。っていうかおれその人からたまにもらうよ、バルーンアート」 「え?ほんとに?」 「ほんとだよ」  健太は一呼吸置いて、続けてこうつぶやいた。 「あの人もさ、おれらとおんなじだよなあ」  香織はどういうことかよくわからず、聞き返そうとしたが、健太は京急百貨店の本屋に行くと言って、さっさと行ってしまった。遺された香織は、一人京急の改札を入り、ちょうど来ていた普通に乗った。京急線の柔らかい椅子が、香織を包み込んだ。
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