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 健太の指摘に、香織はドキッとした。健太なら、聞いてくれるかもしれない。そう思った香織は、おもむろに話し始めた。急いでいておじさんにぶつかったこと、おじさんに心ない言葉をかけてしまったこと、その次の日からおじさんを見かけなくなったこと、自分がひどいことを言ったせいでおじさんは来なくなってしまったんじゃないかということ。次に会ったら謝りたいこと。  健太は香織の話を、最後まで黙って聞いていた。全て聞き終わってから、 「なるほど」  とだけ言った。  しばらくの沈黙の後、健太が突拍子もないことを言い出した。 「あのさ、おれたちが上大岡で折り紙配るっていうのはどうだ?」 「え?え?どういうこと?」 「そのおじさんの、名前も住所も知らないんだろ?じゃあ連絡の取り用もないし、だったらおれらが代わりをやろうぜ」  香織は健太の言っていることの意味がわからなかった。おじさんに連絡が取れないことと、自分たちが駅で折り紙を配ることに何の関係があるのかわからなかった。普段は香織がしていたこういう提案を、健太がしたことも不思議な感じを増幅させていた。 「おじさんに謝ることができない代わりに、せめてもの償いとしておじさんがやってたことをおれらがやるんだよ」  それでも香織は飲み込めなかったが、妙に説得力があったので、乗ってみることにした。  2人は早速他のメンバーに計画を提案した。おじさんの話はせずに、シンプルに上大岡駅で折り紙配布会を行いたい、ということにした。自分たちの作品を多くの人に知ってもらうチャンスだと思ったメンバーたちは、全会一致で賛成した。  一応京急の駅員にも相談したところ、大学の公認サークルだったこともあって信頼してもらえたのか、小規模であれば配布会をやっても問題ない、とのことだったので、香織と健太が2人で担当することになった。  月末の開催に向けて、急ピッチで準備が進められた。子供受けがいいだろうからという理由で、テーマはそのまま「動物」ということになった。犬、猫、ねずみ、熊、カエル、うさぎなど、メジャーで人気のある動物をとりあえずたくさん作った。単純な作業で面白くはなかったが、とにかく月末までに全部で1,000個作るという目標のために、ひたすら折り続けた。香織は、健太が前ほどニコニコして折っていないことに気づいていたが、そんなことを指摘する余裕もなかった。 *
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