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「ほら、ここだぞ。この木の根の方に空洞のある幹があるだろ。そこにしばらく屈んでいればいいんだとさ。おじいちゃんが言っていた。本当は俺のおじいちゃんが入りたいって言っていたけど、二人まではちゃんと永遠の命が貰えるんだってさ」
樹齢何百年の巨木と表現できるその老いた木は、根のところに大人が屈んでやっと入れる空洞があった。ちょうど幹にもなっていて、枝が四方に生えているところがある。
暗い森より更に暗い空間だった。
「ほら、さっさと入れよ」
リクはフレンジャーと一緒に、嫌がるぼくをその空間にねじ込んだ。
突然、巨木が捩れる。
辺りに葉っぱや枝をまき散らし、驚いたリクたちが悲鳴と共に走り去ると同時に、巨木は何かを産み出すかのような。そんな動作をしていた。まるで、苦しんでいるかのようだった。
ぼくはそれ自体は怖くわなかった。
変わりにぼくは叫んだ。
「誰か助けて!」
永遠の命の方がぼくは怖かった。
そう、心底怖かったのは永遠の命の方だった。
ぼくは泣きながら家に帰った。
親はいない。
戦争で二人とも亡くなってしまった。
煙突掃除でなんとか食べていた。
家に帰ると、その日はお腹もすかないので、食事も取らずに何時間とベットにうずくまり泣いていた。
朝日が昇ると、また仕事だ。。
煙突の掃除がぼくの仕事だ。肺を壊して死んだ子供たちは大勢いるけれど、ぼくはもう死ぬこともない。
馬車に轢かれても、車に轢かれても、疫病が蔓延しても、ペストに罹っても。
煙突の掃除道具を持って道端の石を蹴って、歩いていると。
リクたちが駆けて来た。
「死なない体。大事にしろよ」
「車には気を付けろよ」
「ペストに気を付けろよ」
「腹が減ったら、何か食わしてやるからな」
そういうと、からかいながらリクたちは走り去った。
ぼくは大通りから小道の角を曲がると人にぶつかった。一人の少女が何かの本を持って読んでいたようだ。ぶつかった衝撃で、少女は腰を抜かしたようで地面であたふたしている。
「大丈夫?」
「ええ。わたしは死なないのよ」
「え?」
少女はサラサラの金髪をしていて、ぼくと同じくらいの年恰好だ。
「わたしの母は魔女なのよ。ここだけの話よ。昨日、わたしの庭の森で誰かが永遠の命を奪ったって、大騒ぎ。それで、わたしは対策をねることにしたの……あら? あなたなのね。永遠の命を授けられたのは?」
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