子犬を拾いました

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世間は梅雨に入りかけている。 ムシムシとした気温に汗が滴り落ちる、雨の雫も前髪からぽたぽたと落ちる。 今日は大雨だ、赤い靴の汚れを落とすように水たまりを踏んで行った。 街灯が明かりだけを頼りに家路を急ぐ僕の横を何かが横切った。 「誰だ」 問いかける声だけが雨音にかき消される。 視界の中には誰もいない。 身体を後ろへ傾け胸ポケットに手を滑らせた所だった。 「ねぇ」 心臓が高鳴り動揺を見せないようゆっくりと振り返る。 そこにはびしょ濡れの何かが立っていた。 僕よりも背丈のある恐らく男が、顔が濡れた前髪で隠されよく見えないが、この季節にしては暑いであろう長袖ジーンズという奇妙な格好で突っ立っていた。 「拾って」 男は当たり前のように言う。 雨はさっきよりも強くなった、足元に汚れが流れている。 「…名前は?」 「拾って」 会話は出来ないみたいだが、声は少し高めに聞こえる。顔が見えないが何となく自分と同じくらいの青年だという事がわかる。 男は止まったままでこちらが動くのを待っているようだ。ゆっくりと近づき手を伸ばした。 男の前髪をかきあげてみると黄色の目があった。 「…付いて来い」 僕はそれだけ言うとまた家路を歩んだ。 その日僕は当たり前のように犬を拾った
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