電車のおじいさん

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 謎の徘徊ボケ老人に絡まれた。  そう、後日笑い話にできるネタだと、この瞬間の俺は思っていた。  だけど僅か数分後。  次の電車を待つホームにいてさえ、その轟音と衝撃は伝わってきた。  緊急サイレンらしき音がホームに鳴り響く。線路に降りて様子を見に行く訳にはいかないし、途中下車の駅でホームを出てしまうのも憚られた。  とりあえず、駅員に聞いてみよう。  駅舎に足を向け、慌ただしくどこかと連絡を取っている駅員に話しかける。向うも相当焦っているらしく、態度が動転しまくっていたが、それでも聞きたい情報を得ることができた。  さっきの列車が踏切に進入してきた一般車両と接触事故を遭した。車両が一両丸々潰れ、当然ながら電車は非常停止状態になっている。後続の列車は全部ストップしていて、復旧の見込みは現在不明。  その話にふと思うことがあり、突っ込んだ質問をしてみると、駅員の口からは予想通りの回答が戻って来た。  現場からの連絡によると、一般車両が突っ込んで大破した車両は、俺が乗っていた車両だったのだ。  あの時、もしあのおじいさんが俺を叩き起こしてくれなかったら。  無理矢理列車から俺を引きずり降ろしてくれなかったら。  その先を思うだけで、俺の全身から血の気が引いた。 * * *  それから三日程、不便なバス通勤を強いられたが、やがて路線は復興し、俺はいつもの電車通勤に戻った。  その際、あの夜と同じ車両に乗り込んで、朝も夜もあのおじいさんを探すのだけれど、いまだに会うことはできないままだ。  あの人がどこの誰だったのか。どうして俺を電車から降ろしてくれたのか。理由は判らないままだけれど、常に感謝の気持ちはある。  もしまた会うことができたら、色んな『どうして?』は総て後回しにして、まず何よりもお礼を述べたい。  その願いは果たされぬまま、今日も俺は通勤電車に揺られている。 電車のおじいさん…完
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