12、無償

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12、無償

缶コーヒーを買ってパティオに行くと、岬先生は生徒と談笑しながらベンチに座って待ってくれていた。 お弁当を食べている間も、その後もずっと構えていたけど―… 岬先生は、悠馬の話をしてはこなかった。 放課後も、 「椎原先生、お疲れ様です。また明日」 と、昼休み職員室での執拗なやり取りが嘘の様に帰ってしまう。 からかわれただけ……なのかな。 それならその方が良い。 私と悠馬の関係を変に勘繰られたりしてほしくない。 ただ、芸能活動をしている〝悠馬”がオフの日に私みたいな女と過ごしていたって知られてしまったこと。 それは一応、悠馬に伝えておくべき……? 心配のしすぎかもしれないけど、知られてしまったのが岬先生で、あんな態度を取られてしまうと例えそれが冗談でも気になる。 学校からの帰り道、人気のいない場所を選んで携帯で連絡を―… とも思ったけれども、やっぱり会って直接伝えるべきなのかなとも思う。 何時も悠馬からの連絡を待っている私。 これで会う口実が出来た、なんて思っている、恥ずべき自分がいる。 悠馬の番号を表示させて発信。 十回目のコールで、 『繭子さん―…?』 悠馬は出てくれた。
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