12、無償

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「ご、ごめんね、忙しい時間に」 『大丈夫。ちょうど撮影がおわったとこ。それよりも珍しいね。繭子さんから連絡をくれるなんて』 「それは、その―…悠馬に……話があって……」 『俺に話?』 「う、うん―…だから、会って話せるかな……って」 『―…今、どこ?』 「今はまだ学校の帰り……」 『じゃあ、近くまで行くから待ってて』 「あ……待ってっ、私がそっちに行くからっ……」 悠馬の場所を聞いて、それから直ぐにタクシーを拾って向かう。 昼間の岬先生とのやり取りを伝える緊張と、 悠馬に会えるという嬉しさ。 結局、後者の気持ちの方が勝ってる。 タクシーを降りて、少し歩いて、 待ち合わせ場所を遠目で探しても、直ぐにわかる。 人混みに紛れていても、やっぱり目を惹く存在だ。 俯き加減で何かを読んでいて、 「ゆうま」 と声をかけると、顔を上げてくれる。 「ごめんなさい、待ったでしょう?」 「いや、大丈夫。それよりも話って?」 「あ―…」 要件を伝えるよりも先に、チラッと周りを確認する。 悠馬の職業を考えれば、あまり喜ぶべきことじゃないかもしれないけど、私達を気にしている様な人はいないみたい。 ここでも大丈夫かな、と気を使いながら、 「あの実は、土曜日の事なんだけど―…」 私は岬先生に芸能人としての悠馬が私と一緒だったことを知られてしまった件について、なるべく小さな声で伝えた。 昼間の岬先生の何処か気になる笑顔や言葉を思い出すと、不安ばかりが募ってしまう。 けれども悠馬は、 「話って、それだけ?」 「う、うん」 「もっと深刻な話かと思ったよ」 良かった、 と笑って私を見る。
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