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私が通っている料理学校の桂先生は、本当に素敵な女性だ。
私と歳は離れているが、料理が素晴らしいのは勿論、親しみやすくて、お姉さんの様な存在。
「…と、言う訳で、家でも簡単に作れる手作りヨーグルトの作り方だけど…」
今日も先生は、懇切丁寧に私達に教えてくれる。
「ここで用意してもらいたい材料は、市販のヨーグルトなの」
…え?
「あ、皆さん。
今『手作りヨーグルト作るのに、市販のヨーグルトを用意するなんて意味無いじゃん』って思ったでしょ。
実は、実際に本格的に作るとなると、設備が有る工場で温度や湿度管理しなきゃならないの。
だから、設備が無い普通のご家庭で作る時は、市販のヨーグルトをあくまでも天然の『タネ』として使った方が手っ取り早いのよ」
なるほど。
『無』から『有』は作れないって訳ね。
メモをしながら私達は頷く。
先生の授業は、いつもユニークで面白い。
ユニークと言えば…
この料理学校は、
料理のレベルが、ある程度に達したと先生が認めた生徒には『免許皆伝認定証』というカードが贈られる。
私達、生徒にとってはその認定証を頂く事がステイタスであり、喜びでもあった。
勿論、認定証を頂いた後は、卒業(?)して自宅で腕を振るうのもヨシ。
その後も学校に通い続けるのもヨシ。
これまで、二人の生徒が認定証を貰って、この学校から巣立って行った。
「さて!今日の授業は、これでおしまい!
実は…今日は、私から認定証をお渡ししたい方がいらっしゃいます!」
先生の声に生徒達の間から、わっと喚声が上がった。
と!
「岸さん!おめでとう!」
何と!
先生が…私の顔を見て、ニコッと微笑んだではないか!
「えーっ!私?!」
周囲から割れんばかりの拍手と喚声が巻き起こった。
「おめでとう!岸さん!」
「良いなぁ!私も先生の手料理食べたいなぁ!」
そう。
認定証を頂いた生徒には、ある『御祝儀』が有る。
それは…
その生徒は、先生のご自宅に招かれて、彼女お手製のディナーを頂けるのである。
さぞや…美味しいに違いない!
私は、その料理を食べる『資格』を頂いたようなものなのだ。
ああ…夢なら覚めないで。
と、言う訳で…
それから三日後の晩、
私は桂先生のご自宅を訪れた。
郊外に建つその家は、瀟洒なお屋敷。
凄く素敵な雰囲気で、大きなベランダが玄関先からも見て取れた。
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