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「ご、ごめんなさい……でも、それならなんでここに?」
「あの時はみんないたんだ。みんな仲良くて、パパもママも……。でも最近、パパとママはケンカばっかり。そしたらママが『パパと離れて暮らす』って。
だから二人に仲直りしてほしくって。この絵の場所に連れていってこの景色を見れば、仲良かった頃の事思い出してくれるんじゃないかって。
本当に綺麗だったんだよ。急にいろんな色や模様がパァーっと晴れて、桜の木が満開なのが見えて?」
そう話す椿くんはとても明るく笑っていたけど、すぐに俯いてしまう。
「でもみつからないんだ」
それで椿くんは小学校をサボってまで探し続けていた。きっと、椿くんにとってその場所は特別なのだろう。ヘッドフォンもサングラスもいらずに見える景色。私達とは違う世界を見ている椿くんにとって、それは人生観すら変わるぐらいの場所なのかもしれない。
だからきっと仲の悪い両親も、そこにもう一度行けば仲良くなってくれるかもしれない。そんな一縷の希望に縋っているのだ。
「そっか……。よし、その『想い出の場所』探し、私も手伝うよ。この辺りは地元だしね。ただし、来週からちゃんと学校は行く事。探すのは土日だけ。いい?」
「本当? ありがとうお姉さん!」
椿くんに笑顔が戻る。この子には笑顔の方がよく似合う。
心からそう思った。
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