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「結局その『想い出の場所』は見つからなかった訳だ」
彼の言葉に私は頷く。
椿くんと探索を始めて三か月。土日の度に弘明寺の大岡川周辺を中心に探したのだが、あの絵の場所は見つかる事はなかった。
唯一似た場所は、椿くんが警察官に声をかけられたあの場所だけ。しかしそこで椿くんの音の色と模様は晴れる事はない。やはり似ているだけで違う場所だそうだ。
「探したのは弘明寺だけ? 大岡川プロムナードとかの方が、桜は有名じゃない?」
「椿くんが、その時お母さんが病気か怪我をしていてあまり歩けなかったから、お婆ちゃんの家の近くしか行かなかったって。だからお婆ちゃんの家の近くの弘明寺周辺だと思うんだけど」
「それで結局みつからないまま、先週も同じように椿くんを待っていたけど、椿くんは来なかったと――」
「両親に探してるのがバレたのか、それともタイムリミットが来て、お母さんと家を離れたのか……。ねぇ、どうにかならないかな? 市の職員でしょう?」
「どうにかって……椿くんとは連絡取れないの?」
「携帯とかもってなかったから。」
「そうか。ならお婆ちゃんの家は解る?」
「うん。そこから歩けば椿くんが何かを思い出すかと思ったんだけど、ダメで……でも、どうして?」
「市の職員としては何も出来ないけど。個人的にはできる事はあるかもしれない」
「本当?」
「うん。それにもしそのお婆ちゃんの家が俺の知ってる場所だったら……。そうだとしたら凄い偶然だと思うけど」
「えっ、お婆さんの事知ってるの?」
「それを確かめるためにも一度連れていってくれないかな? ただ、椿くんの『想い出の場所』が見つかるとは限らないよ。いや、俺の推測が正しいならもう二度と椿くんはその景色を視ることは出来ない」
「そんな……」
私は絶句する。あれだけ望んでいた景色を椿くんは二度と見ることができないかもしれない……。
『俺の推測が正しいなら……』
私の恋人はいったいどんな景色を今見ているのだろうか?
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