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「本日はお呼びたてして申し訳ありません。自分は市の職員で『市民相談係』まぁ、市民の愚痴や相談を聞く仕事をしている世崎銀杏と申します」
彼はそう挨拶して目の前の二人に頭を下げる。
京急百貨店にあるレストランで、私達が椿くんのご両親と会ったのは、彼に椿くんの事を相談した二週間後だった。
ちなみに椿くんは呼ばなかった。彼曰くどうやらその方がいいらしい。
「相談係……あぁ、母の! その節はお世話になりました」
椿くんのお父さんがそう言った。その言葉に椿くんのお母さんは驚く。
「ほら、母さんの葬式の時にも来てくれただろう。よく電話で母さんの話し相手になってくれていたっていう」
「あぁ、若い公務員さん」
「えぇ、あの時教えていただいた連絡先にかけさせてもらった次第です」
「あの、それで今日はなんで私達は呼び出されたのでしょう?」
そう尋ねる椿くんのお母さんは、妙に自分の夫を意識している気がする。
どうやら既にお母さんは椿くんを連れて家を出てしまっているらしい。椿くんが『想い出の場所』探しに来なかったのは、やはり両親の別居が原因のようだ。
「椿の事について大事な要件と聞きましたが……」
その質問に彼は一枚の紙を取りだし二人に見せる。コピーさせてもらった『想い出の場所』の絵だ。
「椿くんがこの場所を探していたのはご存知ですか?」
お母さんの方が眉をしかめる。どうやらお母さんの方は知っていたらしい。
「えぇ、どうやら親切なお姉さんに手伝ってもらっていたそうで……」
「その親切なお姉さんがこちらの佐倉実さん。自分の恋人です」
「えっ、さくら……」
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