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「それはきっと共感覚だよ」
私、佐倉実里に向かって恋人の世崎伊調は真剣な顔でそう告げる。
「一つの刺激で複数の感覚を感じる事。文字に匂いを感じたり、音に色を感じたりするんだ」
横浜にある夜景の見えるレストラン。クリスマスも近くムードたっぷりのこの状況で彼は私にプロポーズをする訳でも無く、まるで講義のように語る。研修とやらで海外にしばらくいて、久しぶりに会ったというのに私達は何故かこんなムードのある場所で、色気の無い話をしていた。
まぁ、相談をもちかけたのは私の方なんだけど……。
「それでその共感覚を持った子がどうしたのさ?」
「それが実は――」
久しぶりに会った恋人とのデートだというのに、何故私達がこんな話しをしているのか。それは彼と会えなかったこの数ヶ月に私が出逢った不思議な少年の事。
そしてその少年が探している『想い出の場所』――。
「私はその椿くんの“笑顔”を取り戻してあげたいんだ」
その不思議な少年と出会ったのは三か月も前。ちょうど八月が折り返してすぐだった。
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