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土曜日の朝、私は品川駅の下りホームにいた。
後輩のミスが発覚したのは昨日の終業間際。それから対応に追われ、気づけば終電は過ぎ、仕方なく会社で一泊して色気の無い朝帰りに。
品川発の下り電車に乗り込むと、閑散としている車両で優雅に座席を占領する。
疲れているし、都合の良い事に人目もほとんどない。だらしないけど少し寝てしまおうかとうつらうつらしていると、誰かが駆けこんでくる足音がして扉が閉まった。その足音がわざわざ私の目の前の座席に腰を下すものだから、私は少し気になって目を開く。
そこにいたのは例のヘッドフォンとサングラスの少年で、いつもと同じリュックサックにスケッチブックまで持っている。
なんでこの子が品川にいるの?
いつもこの子を見かけるのは上大岡の駅。おそらくその後は上りの普通車に彼は乗っている筈なのに、こんな朝早くに品川駅から下りの電車に乗るなんて……。
私はそれから眠気も忘れ、少年が気になって上大岡につくまで彼を伺っていた。
上大岡につくと、少年は勢いよく電車を降り、改札のある三階へ行くためにエスカレーターを駆けあがっていく。上大岡は改札が一階と、京急百貨店に出る三階とがある。
結局少年がどうして品川駅から乗ってきたのかわからないまま彼を見送り、消化不良のまま、私は自宅へ戻るために一階の改札へ向かう筈だった。
ダッダッダッ――という足音が反対側のホームから聞こえ、そこに見覚えのある姿を確認する。
それはあの少年。
上の改札へ向かったと思っていたのだが、どうやら反対側の上りのホームへと渡ったらしい。そしていつもの定位置で止まる。思わず時計を見ると、土曜日だからか多少の誤差はあるものの、奇しくもいつも私が上大岡を出発する時間だ。
『違う、帰ってきたんじゃない。いつも品川から快特に乗って来て、上大岡で普通車に乗り換えているんだ』
そう思い付いた途端、私の足は何故か勢いよく階段を駆け下り始めていた。
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