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気が付いたら私は少年の後をつけていた。
今の私はどこをどう見ても子供を追いかける不審者だ。
少年は隣の弘明寺駅で降りると、大岡川へと向かって行く。どうやらこの辺りが目的地らしい。
東京から此処まで来るのだとしたら、品川から快速特急に乗り、上大岡で普通車に乗り換えるのはとても効率的だ。つまりいつも私が見かける彼は、乗り換え待ちをしていたという事らしい。
この辺りは春になれば花見の名所で、大岡川プロムナードまで出店が並んでとても賑わう。でも今はもう残暑。桜は咲いていないし、出店だって見当たらない。
こんな所で何をしているのだろう?
そう思っていると途中で少年が持っているスケッチブックを開き、その場所とスケッチブックを見比べて溜息をつく。
そんな少年に二人の大人が近寄って来た。
一目でその職業がわかる制服。二人の警察官は務めて穏やかに少年に話しかけた。
「キミ、一人かな? お父さんかお母さんは?」
質問に少年は答えない。
「最近いつも此処に来てるらしいね。平日も……」
ただでさえヘッドフォンを外さず耳を隠したままの少年が、警察官の話しを聞いているような素振りは無い。すると一人が仕方ないと、無理やりヘッドフォンを外そうと手をかけた。
「や、やめてよッ!」
突然の少年の絶叫。半分外れたヘッドフォンを必死に掴みながら涙目だ。これには警察官達も困ったようだ。
「でも、こうしないとオジサン達の話し聞いてくれないだろう?」
「ヤメテよ、気持ち悪くなる!」
「気持ち悪くって、キミねぇ――」
もう私は隠れていられず飛び出した。
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