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少年は関内椿くんと自己紹介してくれた。
小学三年生、派手な格好と裏腹に、素直ないい子だった。
「助けてくれてありがとう。此処にいるのはパパにもママにも内緒だから……」
「内緒で? 学校は?」
「サボってる……悪い事なのは解ってるけど、早くあの場所をみつけないと……」
「あの場所?」
私がそう聞くと、椿くんはスケッチブックを開いて私に見せた。
そこに描かれていたのは川と桜の木が満開に咲き誇って並ぶ景色だ。季節はもう残暑であるし、桜の花もないから雰囲気は違うけれど、構図だけなら先程椿くんが警察官に呼び止められた場所にとても似ていた。
「上手い絵だね。これ、椿くんが描いたの?」
「はい。あの、この場所知らない?」
「えっ、ここってさっきの……」
「似てるけど違うんだ。あの辺りの筈なのに、ずっと探してるんだけど……」
「探してる……って、この場所を?」
椿くんはそう言うと、ページを捲って他の絵を見せてくる。
「お姉さんにはこの絵に何が描かれてるか解る?」
その絵は、なんというか、前衛的とでもいうのか、凄い絵としか言いようがなかった。幾何学的な模様があちらこちらを飛び回り、あらゆる色が散りばめられている。よく言えば子どもらしい。悪く言えば子どもが描くような滅茶苦茶な……。
「これ、東京タワーなんだ」
「はっ、えっ?」
なんとかその絵を東京タワーと思って見てみようとするが、とても東京タワー、というより風景画にすら見えてこない。さっきの桜の絵と違い、東京タワーのあの三角形や目立つ赤い色さえも何処にあるのか解らない。
スケッチブックを椿くんから受け取り、他のページも見て見るが、ほとんど同じような感じで、何が描かれているか私には解らない。唯一判別できるのは先程の桜の絵だけだ。
「ボクは音が見える体質なんだ」
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