みさきまぐろ

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みさきまぐろ

電車を降りると、さっきまで角度のあった太陽が、もう天井の近くまで昇っていた。 風情のある駅舎。味わい深い街だ。 この街はいつでも、僕を暖かく迎えてくれるような感じがする。 まるで「おかえり」と言ってくれているようで、田舎のおばあちゃんの家に帰ったように、心が安らぐ。 男はここで、バスに乗り換えた。 バスはカタコトカタコトと車体を揺らしながら、少しづつ、確実に前に進んでいく。 バスは港町に着いた。 バスを降りると、気持ちのいい風とともに、磯の香りが届いた。 男は気持ちよさそうに、深呼吸と伸びをし、港の方を眺める。 船が2~3隻泊まっていて、波に揺られてプカプカしている。 空には鳥が飛んでいて、「カーカー」と鳴きながら、あっちへこっちへ飛んでいる。 そんな様子をしばらく眺めたが、次第にお腹が空いてきたようで、男は港近くの食堂へ向かった。 ここに来ると必ず立ち寄る、馴染みの店だ。 緑色の暖簾をくぐると、いつものおばちゃんが出迎えてくれた。 「あら!いらっしゃい!」 「こんにちは。」 おばちゃんは、お茶を出しながら、男に話しかける。 「久しぶりね~!今日は休みなの?」 「はい、久しぶりの休みだったので、またここのマグロが食べたくなって。」 「あら~!それは嬉しいわ。 私、あなたがお店に来ると、まるで自分の息子が帰ってきてくれたみたいで、すごく嬉しいのよ。」 そんなことを言われ、男は照れながらも、こんな俺を暖かく迎え入れてくれるなんてと、しみじみと嬉しく思った。 注文したマグロ丼が届いた。 マグロは脂がたくさん載っていて、ピカピカと美味しそうに光っていた。 口の中に入れると、醤油なんて必要のないくらい、しっかりとしたマグロの味が広がり、まるで溶けていくかのように、すっと消えてしまう。 やっぱりここのマグロは絶品だ。 あっと言う間に、食べ終わってしまった。 「おばちゃん、ありがとね!美味しかったよ。」 そう言うと男はおばちゃんに切符を一枚渡す。 「みさきのマグロは世界一でしょ!また来てね。」 と、おばちゃんは笑顔で男を送り出した。 男は、どこに行こうかと、フラフラしていたが、あっ!と思い立ち、コンビニで缶ビールとさきイカを買って、バスに乗った。
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