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意外な出会い
子どもと一緒に、カニを釣っていると、
後ろから、「お兄さん」と、ドスの効いた声がした。
振り返るとそこには、サングラスをかけた、金髪の男がいた。
首や、腕に、刺青のようなものが入っているのが、洋服の隙間から チラチラと見える。
いかにもヤクザのような風貌だ。
うわっ、俺何か悪いことしたか!?と、男はビビりながら、
「はいっ、なんでしょう…」
と答える。
刺青の入った男は、
「財布、落ちそうですよ」
と濁った太い声で言った。
「えっ!?」
男は反射的に、お尻のポケットに入れていた財布を手で確認すると、確かに財布は今にも落ちそうに、ポケットからはみ出していた。
「あっ、ありがとうございます。」
刺青の入った男は、サングラスを少し下にずらして、
「何してんすか」
と、尋ねた。
「あっ、カニを釣ってます」
「はっ?カニって釣れんの?」
「はい、こうやってさきイカで引っ張るんですよ」
「すげえな。お兄さん、俺にもさきイカちょうだい!」
「えっ…いいですよ…!」
男は戸惑いながらも、刺青の男にさきイカを渡した。
刺青の男は、横にしゃがみこみ、カニを釣り始めた。
すぐにカニはさきイカに食らいついて、簡単に釣れた。
「うぉー!釣れた!お兄さん、これすげえな!」
刺青の男は、初めて笑顔を見せた。
その無邪気な笑顔に、男も嬉しくなって、
「おめでとうございます。」と笑顔を返した。
刺青の男は、こう尋ねた。
「お兄さん、これからどこいくの?」
「温泉に行こうと思ってて…」
「温泉?!俺と一緒!!
えっ、もしかして、お兄さん、みさきまぐろきっぷで来た!?」
「そうですけど…どうして知ってるんですか…?」
「俺もその切符で来たんだよ!!俺ここ昔から好きでさ。」
意外すぎて、男は目が飛び出しそうだったが、顔には出さなかった。
「一緒に温泉行こうよ、お兄さん。」
そう言われ、断れなかった男は、つい、「はい」と返事をしてしまった。
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