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バス
小学生たちに別れを告げ、男二人はバスに乗った。
二人は、バスの前方の席に、一人ずつ、腰をかけた。
バスはだんだん混み、座る場所が全部埋まった。
その時、おばあさんがバスに乗ってきて、刺青の男の横に立った。
男が、こいつがまさか席を譲るわけないと思い、すっと立ち上がろうとした瞬間、前に座ってた刺青の男がバッと立ち上がり、
「どうぞ。」
と言った。
おばあさんも、男も、その場にいた全員が、目が点になっていた。
「えっ…?」という空気がバスを包む。
刺青の男は、それに気づいていないのか、なにも気にせず、おばあさんを椅子に座らせた。
「あっ…ありがとうございます…。」
おばあさんも、驚いた顔でお礼を言う。
男は、"この人、席譲ったりするんだ"と、正直感動してた。
バスを降りて、男は刺青の男にこう言った。
「席を譲ったりするんですね。」
刺青の男は表情をピクリともさせず、
「年上を敬うのは当たり前だろ 。」
と返す。
「俺、誤解されやすいんだよ。この刺青も若気の至りでいれたけど、今は真っ当に生きているのにな。」とも、刺青の男は言っていた。
実はこの人は、見た目からは想像もつかないような、優しい心を持っているのかもしれないと、男は思った。
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