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温泉
温泉に着いて、男と二人で温泉に入ろうとチケットを渡した。
バンダイのおばちゃんが、男の刺青を見るなり、怪訝そうな顔で、「うちは刺青の人お断りなんですよ」と、愛想なく告げた。
とっさに男は、
「いや、この人こう見えていい人なんですよ!!刺青入っているけど、無愛想だけど、すごくいい人だと思うんです!!僕は!」と、すこし声を荒げて主張した。
刺青の男はそんな男をすっと黙らせて、「はい、失礼します。」とおばちゃんに告げ、男には「ありがとな!達者でな。」と言い、その場を去った。
男は、なんとも言えない虚しい気持ちを抑えながら温泉に入ったが、イマイチ温泉を楽しむことができず、そのあとすぐに帰路に着いた。
来た道を、バスに乗って、電車に乗って、戻りながら、男はやりきれない思いでいっぱいだった。
おばちゃんの、軽蔑するような冷たい眼差しが忘れられなかった。
”あのバンダイのおばちゃんは、見た目だけで人を判断して、最低だ。”
そんな考えが、ぐるぐるぐるぐると頭の中を駆け巡った。
そして、ふっと
”自分も初めは同じだったんだ。”
そう気づいた。
男もまた、刺青の男を見て、「怖い人だ」って思ったり、バスで席を譲る姿を見て、勝手に感動したりしていた。
それはまるでバンダイのおばちゃんと何もかわらないじゃないことじゃないか、と男は気づいた。
その途端、男の感じていた虚しさは、爆発したかのように心の中に大きく広がって、埋め尽くした。
悲しみや怒りに、飲み込まれそうだった。
そして男は「もう絶対、人を見た目で判断するのはやめよう」と固く心に誓った。
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