第1章

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 ハイティーン向けのアイテムは、ボーイズにはデッキシューズとリネンのジャージーパンツ。ガールズ向けは、おそろいのデッキシューズとコットンのシャツワンピース。  17歳の二人が歩いているのは、波打ち際。崖の上には白亜の灯台。 二、岬めぐり   白いデッキシューズは、どこまでも僕を舞い上がらせる。心はもう地上3メートルの有頂天。地に足をつけて隣を歩くキミの髪を、潮風が優しく舞い上げる。砂浜の香りに涼やかなミントの緑が一筋流れ込み、海の青が濃さを増した。  これは夢かもしれない。  高校の入学式、僕は突然、恋におちた。桜が舞い散る学校で。  新しい教科書や次の日からの時間割、これから一緒に過ごすクラスメイトたち。そんなことは全て、僕の記憶からは消えてしまった。その日の出来事で僕が憶えているのは二つの場面だけ。  入学式。暖かな陽が差し込む講堂でうとうとしかけていたその時、新入生代表の名前が呼ばれると、僕の斜め前に座っていたキミは颯爽と立ち上がり、長い髪をなびかせステージへと歩いていった。 「先生方、先輩方、ご来賓の皆さま。そして入学式に足を運んでくれた保護者の皆さん・・・」  あらかじめ用意していたらしい文章を書いた紙を広げ、一瞬顔を上げた。 「そして、これから3年間、一緒に過ごす同窓生の皆さん」 僕の心のレンズは、キミの姿をクローズアップでとらえた。  帰り道。学校の最寄り駅は二つある。京急の二つの路線が分岐し、本線に向かう生徒たちと、久里浜線を使う生徒たちが別の駅に向かう。僕は、新大津駅から、久里浜線の終着駅に向かう電車に乗り込む。隣の車両に、ぱりっと新しい制服に身を包んだ少女たちが駆け込んだ。  その中にキミがいた。電車が駅に停車する度、一人また一人と降りていく生徒たち。キミはその最後の一人で、僕が下りる二つ手前の津久井浜駅で電車を降りた。何たる幸せ!キミはすぐそばに住んでいるのではないか。  明日からは隣の車両に乗るのだ。そう思ったのだが、次の朝、遅刻しそうになった僕は、電車でキミの姿を見かけることはなかった。きっともっと早い電車に乗ってしまったのだ。  僕は中学時代、女の子と親しくなったことはない。釣りが好きなだけの、純朴な少年―そんな僕でも、キミに出会った時には、これが初恋だとすぐに分かった。
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