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 初夏の暑い日。  昼休み恒例・購買部でのパン争奪戦にて、無事に昼飯をゲットした俺――九条(くじょう) 乱市(らんいち)は、腐れ縁のマドカとるかと共に、大銀杏の聳える中庭に出た。  さあ、飯はどこで食おうかと辺りを見回したその時、近くで悲鳴が上がる。 「誰かぁあああ、たぁすけてぇえええ」  中庭中に響く叫び声に、自分を含む周囲の人間が一斉に反応し、悲鳴の出処を探す。  声量が派手にデカイものだから、中庭を挟む二棟の校舎の窓からも、複数の生徒が身を乗り出して悲鳴の主を探す始末だ。  しかし、これだけの人目に晒されながらも、声の主はなかなか見当たらない。  救助要請も一度あったきり、ぱったりと途絶えてしまった。 「粗方、ふざけてたんだろ」  声だって、なかなかに間の抜けたものだったから、大して緊急事態でもなかったのかもしれない。  周囲の人間も同様に判断したらしい。  中庭に集中していた視線も徐々によそに逸れていき、今や絶叫があったことすら忘れ去られたかのように、普段通りの穏やかな昼休みに戻っていた。 「さて、腹減ったから早くいい場所探すぞ」  周りに倣って気を取り直し、食事の場所を探す。  今日は暑いので、日陰がいい。できれば、涼し気な木陰とか。 「あの悲鳴、上の方から聞こえたよね。確か、あの辺り」  るかは、まだ先程のSOSが気になるらしい。  右手人差し指で西側校舎の一階と二階の間を指すが、ここからでは校舎の壁と大きな銀杏の木しか見えない。  彼女が指した方向にある校舎の中も平然としたものだ。 「まだ気にしてんのか。そもそも、校舎以外であの半端な高さから声がするわけないだろ」 「でも、聞こえたものは聞こえたんだもん」 「はいはい、わかったわかった。お、あの大銀杏の木陰で食うか」  るかの関心をよそに、初夏の強い日差しから逃れるように、くだんの銀杏の根元に移動する。  風に吹かれたのか、まだ青い扇形の葉が何枚か舞い落ちていた。  日差しも程よく遮られ、なかなか居心地がよさそうだ。
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