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「サクちゃん!」
「るうちゃん、しっ!」
朔夜のもとに、るかが大声を上げて駆け寄る。それに大いに慌てたのは朔夜だ。
疎らではあるが、図書館には他にも人がいる。司書も含めた周りの大人達が、刺すような視線をこちらに向けていることに気付いた朔夜は、るかに静かにするよう、言葉とハンドサインで促した。
「ごめんなさーい。で? サクちゃん、何見てるの?」
"図書館ではお静かに"――その決まりを破っておきながら、誤魔化し笑いと周囲への謝罪の言葉ひとつで片付けた気でいるるかは、朔夜の手許を覗き込む。
だが、決して明るいとは言えない内容の記事がるかの目に触れる前に、新聞は朔夜により閉じられた。
「"今日の運勢"。見事に当てる占い師なんているのかしらね」
テキトーなことを嘯きながら、朔夜はさっさと数部の新聞紙を纏めて小脇に抱えて、図書館の隅に設えられたホルダーに仕舞う。
「さあ、学習室に行きましょう。今回の国語のテストが散々だった子は、何処がわからないのかしらね」
「漢字とか言葉の意味はわかるんだよ。でもさー、作者がどう思ってるのかなんて、ボクにはわかんないよ」
「まあね、人が真実なにを思っているのかなんて、そう簡単にはわからないものね」
先日出された国語のテストについて、愚痴を漏らし始めたるかを一瞥した朔夜は、ふと先程読み耽っていた記事の内容を思い返した。
彼女の第六感が、こう囁く。
――るかに巳冬と夏亥の試合の顛末を知らせてはならない、と。
(だって、るうちゃんは――)
朔夜はるかを振り返り、尋ねた。
「ねえ、るうちゃん。るうちゃんは〈全て〉ってどれのことだと思う?」
かつて、一人のボクサーに同じことを尋ねたが、なかなかに哲学的な質問だと、朔夜は思う。
あの時、相手は答えに詰まったが、目の前の人は臆面もなくこう答えてのける。
「全ては、全てさ」
るかが屈託のない笑顔で答えた直後、外から天気予報にはなかった雨と雷の音が聞こえてきて、朔夜は物憂げに長いため息を吐いた。
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