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「話は戻るが、彼があの枝を気にする理由は、単純にそこに何かがあると考えるのが妥当だろうな」  木の上の奴よりも更に上にある枝を見上げたマドカの声に精彩がないのは、恐らく何か考え事を話しながらしているからだろう。 「残念ながら、ここからじゃ、葉以外は何も見えねえ。ひょっとしたら、校舎からなら見えるかもな」  だが、そこに何かがあったとしても、今の時期、沢山の葉にすっぽりと覆われた枝からを視認できるのかは不明だ。  いずれにしても、そこまでして何かを確認する気は、俺にはない。 「ふたつ、気になることがある」  枝を見上げて、黙考していたマドカがおもむろに呟く。 「うん?」 「彼が木に登る理由」  そう言いつつ、あの枝を凝視するのだから、答えは出ているのだろう。 「僕はさっき、彼をサボリと推理したが、あの様子では、それだけではないだろうな」 「木の上でサボリなんて、曲者じみてるしな」 「そうか? 木の上は気持ちいいのに、サボるには向かないのか?」  そりゃ、危なげなく木登りし、落下しても態勢を整えて着地しそうな人間にならお薦めのスポットだろう。……まあ、万能なマドカにとってはお薦めのスポットではあるか。 「わざわざ危険な木の上に行かなくても、人目につき難い場所は、他にいくらでもあんだろ」 「まあ、そうかもしれない」  何故、コイツは釈然としない様子なのか。  今度、マドカがサボったら、木を探すのも手かもな。 「もうひとつの気になることは?」 「彼が積極的に助けを求めない理由」 「お前、さっき自分で言っただろ。奴は落ちそうだから助けを呼んだ、って。でも、今は危機から脱して、降りる気もないんじゃねえか?」  改めて考える理由がわからんと首を捻ると、マドカはそうじゃない、と頭を振る。 「発言の意図が違う。彼が困っているのには、違いないんだ」  一体なんの話だと戸惑うが、木の上でまだ四苦八苦している男を見て思い出す。 「あー、アイツ、降りれないし、登れもしないのか」  転落しそうな危険に遭っても尚、気掛かりな上の枝。それでも動かないのは、動"け"ないからなのだろう。 「確認したわけじゃないから理由は定かでないが、奴はこれ以上登れない。なのに、どうして応援を呼ばないのかって?」 「そうだ。人知れず木に登り、目標地点に届かない。それなのに、頑なに助けを呼ばないんだ。彼は余程隠密にしたいんだろうな」 「隠密って……かなり穴だらけじゃねえ?」  (結果的に悪ふざけと見なされたものの)悲鳴は上げるし、目的地まで到達できないし(その上、助けを勝手に呼ばれたので、人目も避けられなくなる)、杜撰な隠密行動にも程がある。  こちらに目もくれず、現状に気付かないまま、目上の枝に注目し続ける奴が、いっそ哀れとすら思える。 「ともかく、あの枝の上にあるものが、彼の一連の行動の鍵なのは間違いない」  校舎の窓からは、どうやっても届かない位置にあるモノ。  人知れず、人目につかない授業中を狙って木に登り、危険な目に遭っても尚、諦めきれないモノ。 (少なくとも、隠密にしている時点で、碌なもんじゃねえだろ)
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