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 心地よい風に吹かれながら、買ったパンを食べていると、つい睡魔に襲われる。  昨日までの連休中、特別何をするでもなく、不規則でだらけた生活を送っていた。  怠惰がすっかり染み付いた身には、連休明けの授業はやたらと長く感じられ、ずっと眠気を堪えていたのだ。空腹を満たされると、眠気は更に加速する。 「さっきのマドカの受け売りじゃないが、こうダルいと、サボリたくなるな。昼寝してー。ふあーっ」  空を仰ぐように大きく欠伸をすると、また銀杏の葉が落ちていくのが目に入った。  あまり風は強くないのだけれど、葉がやけに落ちてくるような……。  仰いだついでに、そのまま銀杏の木を観察する。  昔、この学校が寺子屋だった頃からあったと謂われる木なだけあり、実に威風堂々とした姿だ。  真っ直ぐ伸びた太い幹、大きく広がる枝、わっさりと密集する扇型の青い葉、そして、逞しい枝の付け根に巻きつく制服。 「あ? 制服?」  何故、木の上に制服があるんだ?  見間違いかと、立ち上がって見直す。 「ありゃー」 「気がついたか」  こちらを見ることなく、ポテトサラダを頬張りながらマドカが呟いた。 「なに、どうかした?……わ!」  俺達から異変を察知したるかが、俺の視線の先を窺い、声を上げる。  先程、こいつが悲鳴の出所としてアタリをつけた、校舎一階の窓よりもやや高い位置に伸びた枝。  そこに、男子生徒がしがみついていた。 「あんな所で何してんだ、あいつ」  幹に尻を向けて、一抱えはある銀杏の枝にしがみつく男。落ちないように必死になっているのか、真下にいるこちらにまったく気付かない。  男は恐々と上体を起こし、片足を枝に乗り上げたものの、それきり静止してしまった。 (いや、何がしたいんだよ、アイツ?) 「さっきの悲鳴は彼のだよね。きっと降りられないんだよ。助けなきゃ!」  るかは慌てふためき、辺りを見回して何かを探す。 「えーと……何がいる? 梯子? ロープ? マット?」 「トランポリンでも置きゃいいんじゃねえか」 「そんな大物、運ぶ手段も置く場所もないだろう」  一人混乱するるかを後目に、俺はテキトーに答え、マドカは涼しい顔でナポリタンを頬張りながら冷静に告げる。 「もう! 二人とも真面目に考えてよ。ボク、誰か呼んでくるよ」  食べかけのメロンパンを放り出し、るかは近くの体育館へと駆けて行く。  俺は、トラブルメーカーと名高い彼女が、助けを呼ぶ最中に厄介な事件やら問題を引っ掛けてこないことを密かに祈った。
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