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 マドカはポケットから懐中時計を取り出して、時間を確認する。  昼休みの終了まで、たっぷり時間はあるのだが、何故か不服げに嘆息して、時計を仕舞う。 「そろそろ彼女が戻る頃だ」 「上の奴にはありがた迷惑だろうな」  奴の執念は確かなものだが、ここに人が集まる以上、降りざるを得ないだろう。  もしも、奴が隠密に動くことを諦められるのならば、救助ついでにそのまま人の手を借りて、用事を済ませる道もあるかもしれない。 「大丈夫。その前に、僕がなんとかする」  なにが、そしてなにに対して『大丈夫』なんだろうか、 とマドカにツッコミを入れようと振り向き、息を呑む。  普段は無愛想なマドカの、目元だけが楽しげに笑っていた。 (げ! 嫌な予感)  マドカはあまり笑わない。  いくら面白い話をしても、爆笑モノのコントを見ても笑った試しはない。  コイツが爆笑するとしたら、いったいどんな時だろう。どうにも笑いのツボが違いすぎて、イマイチピンと来ない。だが、こいつが笑う時がどんな時かに、ひとつだけ、思い当たるふしがある。  マドカがこんな風に、獲物を見つけた獣のような目をして微笑む時は、大抵は悪だくみを思いついた時だ。 「ここに人が来たら、きっと彼は場を収めるために、一旦は木から降りるだろう。だが、ほとぼりが冷めた頃、木の上の"秘密"を回収しに、また登る」 「で、お前はどう、なんとかすんの?」 「僕がを取ってあげれば、ことは解決する」  ひとり納得したように頷き、マドカは銀杏に近寄った。 「お前がわざわざ取りに行く必要があるか?」  既に木に足を掛けているマドカに詰め寄ると、したり顔をされた。 (なんで、楽しそうなんだよ) 「次、いつ彼が木に登るかわからないからな。僕は授業をサボる気はないけれど、彼は平気でサボるんだろうし、そうなれば、ボクは彼の秘密を知る機会を失ってしまう」  そう言う間に、樹皮の凹凸や節を取っ掛かりに瞬く間に登り、一番低い位置の枝に到着する。  下の枝に着けば、後は早いものだ。点検業者が電柱を登るように容易く、枝から枝に登ったり渡ったり、あっという間に男の近くまで辿り着いた。
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