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「誰かお花くれないかしら」
近くに俺がいることを知っていて、わざと言葉を発する年齢詐称と思える容姿の母に、失笑した。
親が経営しているオフィスで働いていることの難点は、母を姉だと思われることと母の日が面倒だということだ。
「聞こえてるの分かって言うなよ…」
そんな呆れた声に負ける気はない母は、こともなげに言った。
「アンタがくれないから、催促してるのよ」
でも、俺が心配してるのは、そうじゃなくて。
年齢詐称な容姿の母に、若い従業員が惑わせられないかの方が心配なのだ。
『じゃあ、僕が買いましょうか』
どこからかやってきた若い従業員。
頼りになる母は、姉さん的に慕ってる従業員が多く、中には恋心を抱いてる従業員もいる。
「あら、本当?」
『お世話になってるし、その…』
照れながら発する言葉の先を分かっているくせに、何も言わない母は意地が悪い。
まあ、嬉しいのは分かるけど。
だから、目を覚ましてやろう。
「その人、俺の母親だから。旦那いるし」
『はい?』
「だから、その人、俺の母親で旦那持ち」
その言葉に固まる若い従業員。
「もう、バラしちゃだめでしょ」
少し拗ねたように言いながら、楽しそうに笑う母。
誰かこの人を止めてくれとは思うのだが、きっと誰にも止めることはできないだろう。
「来年はやるなよ」
そう言いながらも、俺は来年が憂鬱で堪らないのだった。
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