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祖母がいなくなってからも、由海子はこうして三笠公園へ行った。夏に。去年も、夫も娘もいなくても。自身の名前の由来だからか、奇しくも夫と知り合った場所だったからか。由海子にもよくわからなかった。そう言えば、と、ふと思い立って、由海子は娘へ問うた。
「ねぇ、美由(みゆ)ちゃん」
「んー」
名前を呼ばれ、娘、美由は母へ首を巡らせた。つまらなさそうな顔をして「何」娘は訊き返して来た。
「今日はどうしたの?」
「何が」
「いっしょに行きたい、なんて」
そうなのだ。朝、夫を送り出し仕度する由海子へ、夏休みは絶対昼近くまで起きて来ない美由が「今日横須賀行くの」と声を掛けて来たのだ。
普段の日だって、起こされなければ起きない娘が起きて来たのは、由海子からすれば正直有り得なかった。いきなり話し掛けられたときは驚いて「ひっ」小さく悲鳴を上げたくらいだ。
由海子の問いに、やはりつまらまそうな表情のまま、美由は窓へ顔を戻してしまった。年ごろの娘の無視に慣れてしまっていた由海子は、ああこれは答えてくれないな、と半ばあきらめ、再び鞄の整理を始めた。
財布やポーチなどの物を寄せ、買ったばかりのペットボトルを鞄の端に挿し入れたのと同時に「何かさ」美由が喋り始めていた。由海子は無意識に美由を見た。
美由は先程の再現のようにつまらなそうな、不機嫌そうな面容で由海子のほうを向いていた。由海子は「うん」相槌を打った。
「前さ、ライブ行ったじゃん」
「……ああ、去年横須賀行こうって言ったとき?」
一瞬、何のことかと考えてしまったが、思い出し挙げてみる。美由も頷いた。合っていたみたいだ。
「在ったわね、そんなこと」
「それでさー、お母さん勝手に一人で行っちゃってさ。もう夏、行かなかったでしょ」
「そうだね。でも仕様が無いじゃない? 美由ちゃん、お友達とライブ行くって」
好きなアーティストのライブチケットが取れたとかで美由は、去年由海子の誘いを蹴った。美由の年齢を考えれば仕方ないわね、と由海子は横須賀へ、三笠公園へ単身行った。
「お母さんも仕事在るんだもの。休みだって合わせてあげられないし」
「そうなんだけど……」
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