rail─レール─

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 これまで、家族の無遠慮さで小気味良く放たれていた美由の言葉は、急に歯切れが悪くなった。口籠もった娘に由海子は首を傾げた。美由は目線を落としどうやら考え込んでいるようだ。  気が付けば、上大岡はとっくに着いて発車するところだった。どんどん、横須賀中央に近付くにつれ風景が変わって行く。家が山に埋もれているかの如く木々に囲まれた、緑豊かな住宅街に。少しレトロな光景は、映画に出ていそうな一種のファンタジーさえ感じさせた。 「……」  祖母と出掛けたときもよくこうやって、祖母越しに車窓を覗いては、宮崎監督の映画アニメを想起していた。  祖母は、この京急本線で横須賀中央へ行きたがった。祖母が祖父と結婚したときは、この京急本線は在ったのだろうか。  夫が結婚前付き合っていたころ、横浜から浦賀、三崎方面の線路開通を湘南電気鉄道が計画していたんだけど、関東大震災に遭ったりして様々困難に見舞われて、後に湘南電気鉄道は京浜電気電鉄が助けられたとか語っていた。それで無事開通して日中戦争時に合併したとか。由海子は夫の薀蓄を可能な限り思い起こした。けれども、実際祖母の時代どうだったのかはわからなかった。日中戦争時合併したなら、祖母が祖父と出会ったころには合併後だろうし、なんて推察を重ねていたところで「……あのね」美由が再度口を開いた。 「私去年凄い靄々したんだよね。横須賀行かなかったとき」  ライブにも行き、楽しく夏休みを過ごした美由はとても充実していた気分だった。だのに、なぜか二学期が始まってから、胸が痞えている気がしていたのだと言う。何かを忘れているみたいな……だけれど、いったい『何』が原因なのか美由は判然としない。美由は休み明けだからやる気が起きないのかと、忘れることにした。  結果として秋も冬も、居心地の悪さは消えなかった。  頭の奥で引っ掛かっていたのだと言うのだ。違和感が、片隅を占拠していたと。  それから美由の学校では先輩たちが卒業して、美由が三年に学年が上がった。 「今年も教育実習の先生がさ、来たじゃん」 「ああ、そうね」  今年の春、もう殆ど夏だが、教育実習生が美由の高校にやって来た。教育実習生はこんな話をしてくれたそうだ。 “人は、二度死ぬ” 「へぇ」 「で、思い出したんだよね。ああ、去年は横須賀行ってないんだって」
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