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「今日は何か捕まえた?」
「ヤドカリとかカニならすぐ捕まえられるけど、今日は魚狙いだから、まだ」
姉が答える。
「大物狙いだね。でも、その魚、海は広いのにこんな狭いところに閉じ込められちゃって、ちょっとかわいそうだね」
と、何気なく言ってみる。
それを聞いた姉は顔を上げてちらっと亜津子の顔を見て、それから海の沖の方を見ながら言った。
「ここならサメとか大きい魚がいないから安全なんじゃない。それに、嫌になったら潮が満ちたときに移動すればいいし」
亜津子はふーむ、なるほど、と思いながらも、思わぬ返答に少し動揺して、
「潮が満ちる、って難しい言葉を知ってるね」
と、やや的外れな言葉を返してしまった。
「じいちゃんが漁師だから」
姉は今度は海から顔を上げずに淡々と答えた。ふーむ、なるほど。
そのとき、「ティロン♪」と亜津子のリュックの中から、スマートフォンにメッセージが届いたことを知らせる着信音が鳴った。
「いろいろ教えてくれてありがとう。海に落ちないように気を付けてね。バイバイ」
「バイバイ!」
「バイバイ」
と妹は元気よく、姉は淡々と答えてくれて別れた。
岩場から上がって、お店の軒下の影になっているところに入ってメッセージを確認する。留美からだった。
「急にどうしたの?泊まってくれていいけど、今どこにいるの?健太さんは一緒?」
「一人で電車に乗って三崎口まで来た。どこかわかる?今海見てるよ。」
すぐに既読になって、さらに返事がきた。
「なんでそんなところに一人でいるの?三崎口って、京急の終点の三崎口?」
留美の混乱ぶりと、この後再会した時に今日のことを話す自分を想像して、またおかしさがこみ上げてきた。周りに誰もいないのを確認して、我慢せずに笑いながら返事を打つ。
「いろいろあってね。長くなるから会ったときに話すね。その三崎口だよ!今の私にとって三崎口は終点じゃなくて出発点だけどね。これからそっちに向かうよ」
ちゃんと送られたのを確認してから、スマートフォンをリュックにしまう。
今更ながら、予定外に日差しを浴びたことで日焼けしちゃったかな、と気にしながら、亜津子はバス停に向かうために一歩を踏み出した。
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