第1章

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 飛行機に乗る前から、いや、朝起きてから、いやいや、振り返って考えると一ケ月ほど前から嫌な予感はしていた。  朝一番の飛行機で四国を出発し、羽田空港に着いて京浜急行電車の新逗子行に乗りこんだ亜津子はスマートフォンの横についているボタンをポチッと押した。画面を表示させて何も変化がないことを確認して溜息をつく。電車に乗ってから、少なくとも1分に1回はこの行動を繰り返している。  今回の旅の目的は恋人の健太に会うことだ。亜津子は今大学四回生で、2年先輩だった健太とはサークルで出会った。付き合ってちょうど2年が経つところで、健太が就職で神奈川に引っ越してからも、この1年間今回のように度々行き来しては関係を続けてきた。  今日はゴールデンウィークの真ん中にあたる日で、暦では平日だが、大学の授業は休講になったし、健太も有給休暇を取ったので今日から3日間一緒に過ごす予定になっている。亜津子がまたスマートフォンをチェックしている。健太とのラインのトーク画面は、亜津子からのメッセージばかりが続けて表示されている。昨日の夜18時に送られてきた、 「今日の夜会社の人たちと飲みに行くことになった。遅くなると思う」 を最後に健太からの連絡はない。 「了解!気を付けてね。帰ってきたら連絡ください。明日は予定通り朝一番の飛行機でそっちに行くね。もうちょっとで会える♪」 「おはよう!昨日はちゃんと帰ってこられたかな?こっちはこれから空港に向かいます」 「飛行機予定通りの時間に出発します」 「到着したよ!起きたかな?」 「とりあえずいつもの電車に乗ります。起きたらすぐ連絡ください」  今日の朝から送っているメッセージは、相手は未読の状態となっている。何度見ても変化はなく、亜津子はまた溜息をついて、手持無沙汰な様子で画面をスクロールして過去の会話を流していく。1か月分の会話が、親指を画面に沿って5回ほど上下させただけで確認できた。
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