第1章

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やっぱり、おかしいよなあ。亜津子は会話を読み直しながら思う。1ヶ月ほど前にこのゴールデンウィークの予定を決めた直後から、健太の様子がおかしくなった。  それまでは健太のほうから一日何度もくだらないことでメッセージを送ってきたり、電話をかけてきたりしていたのが、この1ヶ月は明らかに様子が違う。一応毎日やりとりはしていたものの、内容はあいさつ程度で、亜津子のほうから送って、健太が時間をおいてそれに返事をすることが多くなっていた。  亜津子は1年前のゴールデンウィークを思い出す。そのときは健太が四国に帰省した。慣れない車を運転して亜津子が空港まで迎えに行った。到着口から降りてきた健太は、亜津子を見つけてほっとした笑顔を見せ、車に乗ると、 「いやー、地元は落ち着くなあ。大体向こうは人が多すぎるんだよ。道もすぐ渋滞するし。早くこっちの勤務にならないかな」 などと関東での生活についてさんざん愚痴っていたのだが・・・ そこで亜津子の耳に車内アナウンスが飛び込んできた。   「間もなく横浜に到着します。横浜の次は日ノ出町に停まります」  健太のアパートの最寄駅は上大岡。土地勘のない亜津子だが、横浜からなら後10分ほどで上大岡に到着することはわかっている。健太にメッセージを送る。 「もうすぐ上大岡に着いちゃうよ!」  酔っぱらってそのままずっと寝てしまっているのだろうか、それとももしかして事故や事件に巻き込まれたのだろうか・・それとも・・・ いろんな考えが頭にぐるぐると浮かんできて、鼓動が速くなりなんだか息苦しくなってくる。 「上大岡に到着します」   車内アナウンスを合図に亜津子は立ち上がり、膝に置いていたリュックを背負い、頭上の網棚に置いていた飛行機の機内に持ち込めるサイズのボストンバッグを下して、プシューッという音とともに開いた扉から電車を降りた。どうしよう、と周りを見回し、少し離れたところにベンチを見つけたのでそこに腰を下ろす。スマートフォンを取り出して健太に電話をかけるが、やはりつながらない。 「上大岡についたよ。健ちゃんの家に向かうね」 とメッセージを送った瞬間、これまでのメッセージも含めて相手が読んだということを意味する既読のサインが表示された。
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