第1章

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「楽しい大学生活が終わるのが残念ってこと?」 高校、大学が同じ友人の真紀にそんなことを話すとこう聞かれた。 「それもあるけど、なんというか、年を重ねるごとに、窮屈になっていく感じ。未来って可能性は無限だけど、それが現実になるときには一つだけを選択するしかないじゃない。選んだこと以外を諦めたり、なかったことにしたりするのが、不安というか、こわいというか・・。わかるかなあ」 「わからなくはないよ。そこまで突き詰めて考えたことはないけど。亜津子、今モラトリアムだねー」 とまるで年の離れた妹に向けるような、からかうようで慈愛に溢れた笑顔を見せた。そういう真紀は就職組である。 「私はむしろ早く働きたいよ。今やってる居酒屋のバイトも楽しいんだけどさ、やっぱりバイトはあくまでバイトじゃん。責任はそれほどないけど期待もされない。そこがもどかしいところもあってさ、思いっきり働いてみたいな、って」  高校の頃から、私の方が冷静に物事をみているお姉さん的な立場だと思ってたのに、いつのまにか真紀の方が先に進んでる。亜津子はちょっとの寂しさと、それから自分がこのままではいけないような焦りを感じた。さらに真紀は、 「私と同じゼミの栄子って子はさ、大学卒業と同時に年上の彼氏と結婚するってさ。亜津子は健太さんとはどうなの。結婚とか考えてるの?」  「結婚!?早くない?」  それまでの亜津子にとっての結婚は、いつかはしたいな、と思う程度のもので、現実にするものとして考えたことはなかった。 「健ちゃんとどうこう、っていうより、結婚ってもの自体がまだ考えられないよ」  そんな話を真紀とした後、亜津子は健太との未来というものを少しずつ考えるようになった。健太は本社が四国にある企業に勤めているが、働く場所としては関東の方が多い。実際に今は関東にいるし、しばらくは転勤もない。  亜津子が大学院に進学するとまだしばらく遠距離の状態が続くことになる。その先には何があるのか・・何かあるとして、どれくらい続ければいいのか・・なんだか途方もないなあ・・
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