第1章

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この1ヶ月健太の様子がおかしいことも気になっていたし、健太が亜津子とのこれからについてどう考えているのか、ということを今回の滞在中に聞いてみよう、と思っていたところだったのだ。それを聞くことで、話はいい方向にはいかないかも、というのもなんとなく予感していた。それにしてもこんなことになるとは。  車窓に切り取られる景色の中に、住宅や建物の間からちらちらと光を反射して輝くものが見えた。 「あ、海だ・・・」  亜津子の実家と大学は両方とも海から近く、生まれたときから身近にあった。今日も空港までの道のりでも目にしていた。それほど時間があいたわけでもないのに、外国の中で知り合いにあったような、懐かしいようなほっとしたような気持ちになった。そこからもう少し進むと三崎口という終点に到着した。 「三崎口ってこんなところにあるんだ」  スマートフォンで駅の位置を確認してみる。三浦半島を南下して、ずいぶん遠くまで来たもんだ。約一時間ぶりにスマートフォンを手に取って、もしかして健太から連絡がきているんじゃないか、と頭をよぎったがその気配はなく、あえて気にしないようにしてリュックにしまった。  さて、これからどうするか。そうだ、さっき遠くに見えていた海を見に行こう。ここからそう遠くはないはずだ。  ロッカーにボストンバッグを預けて駅から出ると、すぐ近くにバス停があり、すでに何台かバスも停まっていた。迷ったが、見たことのない土地で見たことのない景色を見ていると、今日あった嫌なことを脇にどけて、冒険心や好奇心というものがむくむくと出てきた。少し元気が出てきたので、歩いてみることにする。  間違っていてもいいや、と適当にあたりをつけて、道路を歩いていく。大きい道を選んだつもりだったが、車通りも少なく、目に入る緑が多くずいぶんのんびりしたところだ。 亜津子の実家がある場所も、ここに負けないくらいのんびりした田舎だが、健太のところに遊びに来たときは、横浜のみなとみらいや東京都内に出かけていたので、思いがけないのどかな風景に心が安らぐ。
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