第1章

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 しばらく歩いていくと、建物が途切れて視界が広がり、一面の畑が目に飛び込んできた。 「うわあ、すごい」  亜津子は実際に行ったことはないが、何かの折に映像か画像で見た北海道の風景を思い出した。区切られている箇所によって育てている物が違うようだが、一番手前はキャベツ畑だった。今にも収穫できそうなほど大きく育っている。普段スーパーで売られているキャベツの玉を守るように、周りを濃い緑のしっかりとした葉が何重にもまとわれていて、ゴージャスで女王様のような雰囲気だ。  1個でもかなりの存在感なのに、それが数えきれないくらい、亜津子の足もとからずっと先まで広がっている。  畑を奥まで見渡したとき、空の青さに気がついた。そのまま空を見上げると、いつの間にか雲一つない青空が広がっていた。  太陽はちょうど真上と思われる位置にあり、初夏を感じる暑さになってきている。亜津子は羽織っていたパーカーを脱いでリュックにしまった。半袖になり、気持ちのいい風が通り抜けていくのを感じる。  のどが渇いたのでコンビニに寄って飲み物を購入する。その近くにバス停があり家族連れと老夫婦が並んでいたので、そろそろバスが来る時間なのかな、と思って道を見ると、ちょうどバスがやって来た。しかもバスの行先は「城ヶ島」となっていて、ナイスタイミングとばかりに亜津子はこのバスに乗ることにした。  城ヶ島がどんな島か知らないが、島なら行けば海が見られるだろう、と。  バスは思ったより混んでいて、亜津子は一番後ろの窓側の席に座った。バスに揺られてしばらく進むと、それまで順調に進んでいたバスが不自然にスピードを落としたので何かと思って前を見ると、たくさんの人が道路にごった返しているのが見えた。その先には太陽の光を反射して輝く海と、漁船。 次に停車するバス停が「三崎港」となっているので、ここが三崎港なのだろう。  亜津子は今日は平日と言えどもゴールデンウィーク中であることを思い出した。道路に面したいくつもある料理屋には「まぐろ」と書かれたのぼりが出ていて、とても活気がある。亜津子も降りてみたい衝動に駆られたが、先に島に行こう、と思い直す。
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