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「――三浦、か」
「そう。覚えていてくれた?」
小さくため息を漏らし、彼、尾上慎一郎は言う。
「バカも休み休み言いたまえ。私は、同級生を忘れるほど耄碌してはいない」
「同級生、かあ」ははっと三浦は笑った。「元・彼女、とは言ってくれないんだ」
慎一郎は顔を引き締める。それを見逃す三浦ではない。
「あら、恐い顔しちゃって」あははと三浦は畳みかける。
「怒った?」
「怒ってなどいない」
「あら、でも、ムッとした顔してるくせして?」
それには彼は応えない。
三浦はバスが消えた方向に顎をしゃくった。
「新しい彼女?」
見られていたのか。
どこから?
慎一郎は沈黙を持って返事とする。
「まるで映画かドラマか何かのワンシーンみたいだったわね」三浦は彼の意図にお構いなしだ。
わかっていた、彼女ならそういう態度を取る。
「どうしてここに」
慎一郎は話題を変えた。
「決まってるでしょ。宿泊してるの。ここにいるのは偶然よ。あの子、あなたの相手にしてはおとなしすぎそうだったけど。趣味変わったのかしら? いつまで続くことやら」
「君には関係ない」
「そうね、私には関係ない」
「彼女は――妻だ」
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