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『私の妻』とスマートに言いたいのに、言い慣れていない彼は何とも締まりのない口調になった。
「は? つまぁ? あなたの? 嘘でしょ」
三浦は目を丸くし、そして吹き出す。
「あなたが結婚? それはおめでとうと言っておくわね」
三浦は勝手知った風に彼の隣に立ち、腕を組む。そして彼の首筋を指した。
「ここ」
触れるか触れないかの所で指先を止める。
「ふうん」曰くあり気な言い方をし、人の悪い笑みを浮かべる。
「妻かどうかはともかく、恋人か愛人ってのは本当のようね。へたくそみたいだけど」
何を、と言いかけ、慎一郎は首筋に手をやる。
束の間の逢瀬の時、がりりと噛みついてベソをかいた恋人、秋良(あきら)。
力の加減がわからない、と困惑しながら唇を寄せ、吸ったつもりで歯を立てた。
ごめんなさいと何度も言う彼女へ、慎一郎は何倍ものキスを浴びせ、赤い花をその身体中に散らした。
困惑と恥じらいを隠さず歓喜の声を上げる彼女は可愛かった。
慎一郎の頬がつい緩む。三浦はそれを見逃さない。
「何をヤニ下がっちゃって」
彼の二の腕をつねりながら言った。「どう? 久し振りに」
「は」
「あなたが満足できるとは思えないんだけど。足りないんじゃない?」
身体をずらし、足元を組み替えて身をすり寄せてくる仕草は、明らかに男を誘っている。
「バカも休み休み言いたまえ」
慎一郎は身を離してエントランスへ向かった。
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