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時には泣きながら、失礼なことに違う男の名を口にして、慎一郎に抱かれた。
後腐れなく過ごせるのならそれでもいい。
当時の三浦と慎一郎は似たもの同士だった。
が、子供はいつまでも子供のままではいられない。いつかは次の段階に進む。
慎一郎と三浦にも、お互いから卒業する時が来る。学業の卒業と進路決定の時期と重なった。
慎一郎は父親の希望通り大学院への進学が決まった。
三浦は白鳳に籍を置く一部のブルジョワ学生の例に漏れず、生活や食うのに全く困る心配がないお嬢様だったので、定職につかず、大学院へは習い事の延長で進み、留学した。
気ままな彼女は発想が柔軟で、日頃からこう公言して憚らなかった。
ネタならいっくらでもあるわ! 誰か代わりにやってくれるなら、提供してもいいくらい!
研究させてくれるならどこでもいい、学校以外でもどこか企業に入ってもいいのよ。
事実、彼女は成果を上げた。見事だった。
「いつまでも遊んでちゃいけないわね」
ある日、慎一郎の腕にもたれ、髪の毛の先で彼の胸をくすぐりながら彼女は言った。
尾上君は私と寝てくれるけど、抱きしめられた満足はくれない。
快感は一時だもの。
いった瞬間に死ねたらいいけど、人間簡単に死ねないし。
わかってる。あなたは私と生きる人じゃない。
だって、あなたはどこかここではない何かを見てる。今もだわ。
あなた、誰を抱いてるの?
イギリスに発つ前、最後に過ごした夜に三浦は言い、それきりになった。
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