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留学した国は同じでも進学した学校は違っていた。下宿先が二人ともロンドン近郊だったから、顔を合わせれば食事ぐらいはした。
しばらく顔を見なくなったと意識した時には最後の食事から数ヶ月が経過していた。
三浦は帰国したと届いたのはさらにその後。
彼女が帰国後に大学院を辞め、音信が途絶えた。
イギリスで学業を修め、母校に帰ってきた彼の元に、三浦が訪ねて来るまで彼女のことは忘れていた。
久方ぶりに会う彼女は変わっていた。余裕がなくなっていた。
彼を訊ねた彼女が開口一番に発した言葉は「子供がいるの。――あなたの子よ」だった。
身に覚えがないわけではない。しかし、子供の年齢と関係があった時期が噛み合わなかった。
言うに事欠いてなんてことを持ちかけるのだ。
最初は深い憤りを持った。しかし、何が彼女にそうさせるのかと考えた時に腑に落ちるものがあった。
これは、彼が知る彼女なりの世間との関わり方だ。
不器用で、愛される実感の乏しい彼女は、自己評価がおそろしく低い。若い頃はその容色で異性を惹きつけるぐらいわけなかっただろう、でも、齢を重ねると若い魔力は褪せてしまうものだ。
慎一郎は説いて聞かせた。
「君は誰にも負けない発想の豊かさと切り替えの早さを持っていたはずだ。あの頃を思い出したまえ。私では君が望む愛は与えられない」
「――そんなこと、わかってる! 愚かだと、人に言われるまでもなく、自分が一番に!」
三浦は彼の前から去った。
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