0人が本棚に入れています
本棚に追加
どこか、見たことのあるような男だった。
「お父さん、はじめまして・・・・・・」
長友といいます。男が右手を差し出した。
「旦那さん、競艇の選手なの。私もお父さんの血を引いて
るんだね」
差し出された右手を握りながら、昨日、緑色のジャンパーを着て
ボートに乗っていた男のことを思い出す。スタンド中から上がった
歓声を思い返す。
この男の頑張りのおかげで、今自分はここにいるのだ。
「娘のことを、どうぞよろしくお願いいたします」
和夫は長友の右手を握り締めたまま、深く頭を下げた。
式場のスタッフに呼ばれ、裕美と長友は控え室に戻った。
二人の背中が小さくなっていく。
(頼むぞ、長友)
和夫は拳を握り、心の中で叫んだ。
(了)
最初のコメントを投稿しよう!