第1章

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どこか、見たことのあるような男だった。 「お父さん、はじめまして・・・・・・」 長友といいます。男が右手を差し出した。 「旦那さん、競艇の選手なの。私もお父さんの血を引いて るんだね」 差し出された右手を握りながら、昨日、緑色のジャンパーを着て ボートに乗っていた男のことを思い出す。スタンド中から上がった 歓声を思い返す。 この男の頑張りのおかげで、今自分はここにいるのだ。 「娘のことを、どうぞよろしくお願いいたします」 和夫は長友の右手を握り締めたまま、深く頭を下げた。 式場のスタッフに呼ばれ、裕美と長友は控え室に戻った。 二人の背中が小さくなっていく。 (頼むぞ、長友) 和夫は拳を握り、心の中で叫んだ。                         (了)
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