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「帰ろう。香子。」
「……………」
「俺たちの部屋に帰ろう?」
思いっきり泣いておさまったら、涙はもう出なかった。
立ち上がったら、川崎が私の服に着いた汚れを払い、水飲み場に行ったと思えば自分のシャツを濡らして戻って、怪我を気遣い優しく私の顔を拭う。
ベタベタがなくなってスッキリ。ニコッと笑って見せたら、また瞳を揺らがせ、優しく抱き締めてくれた。
今度は私も川崎の背中に手を回して応えた。
私のペースに合わせてゆっくり歩く。
繋がれた手は熱く力強い。
「川崎さん。」
「ん。」
「おしゃべりして帰りたい。」
「ん。」
「ここに走ってきたの?」
「ん。」
「何で分かったの?」
「ここ以外思い付かなかった。お前はもう帰る場所は俺のところだけだから。」
「ウエディング写真、とってくれる約束したくせに。」
「…ポンと抜けてた。ゴメン。」
「さっき、昴にヤキモチやいた?」
「妬いてない。」
「嘘だー。」
「…ちょっとだけ妬いた。」
「フフ。」
「…何だよ。」
「ヤキモチとか、嬉しいね。」
「……………」
「あ、照れちゃった?」
「照れてない。」
「嘘だー。」
「ちょっとだけ。な。」
「可愛い川崎さんもいいね。」
「男に向かって可愛いはやめろ。」
「だってヤキモチだもん。」
「…………俺も。」
「え?」
「今朝、お前が嫉妬してたから可愛くて。説明するの忘れて舞い上がってた。」
「…………何それ!」
「……照れてる?」
「照れてないもん!」
「…でも、お前は俺を信じてた。今朝も、居場所を伝えるときも、爆弾のありかを伝えるときも、爆弾を外すときも。
俺が絶対来てくれるって信じてただろ。助けてくれるって思ってただろ。…それがずっと伝わってた。」
「…うん。」
「………嬉しかった。」
「………うん。」
「別れたくない。さっきの取り消し。」
「うん。」
「だから、お前もずっと俺を頼って。」
「………うん。」
一体、どこまで自分を追い詰めてしまったのか。
優柔不断になっても、
怖がりになっても、
嫉妬しても、
泣きそうになっても、
きっとそれは
私だけに見せる無表情川崎の本当の顔
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