9人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
すぐに違和感を覚えた。さっきのガキとは明らかに声が違う。
訝る数秒の間の沈黙を破ったのは、向こうだった。
『あのさー、たった今弟から聞いたんだけど、あいつ俺のスマホ使ってアダルトサイトに登録したんだってー?』
「あ、はい。左様にございます。このスマホのIDは、あなた様のものなのですね?」
左様にございますなんて日本語、普段は絶対使わないが、ここではすんなり口をつく。
訓練の賜物だ。
しかしなるほど、持ち主は兄貴だったのか。ますます間抜けなガキだ。
『あいつやるよなー! まだ中2だぞ、中2! あ、でもそうか、俺らの頃も大体そんくらいでそんな話題に興奮してたんだっけ?』
「はあ。ところでお客様。弟様からお話は……」
『あー! 全部聞いた全部聞いた! キャンペーンの期限もうヤバイだろ!』
「はいお客様。しかし我々もお客様の御都合を配慮致しまして、少しなら期限を先延ばしすることが可能でございます」
『そーなの?』
「はい。今回の場合、登録されたのが未成年の方でありますので、30分の先延ばしにさせて頂きます」
『30分ね。でもま、別にいーや。いーよ期限切れで! 払う払う、いくらだっけ?』
「はいお客様、もしも30分以内のキャンペーン期間を過ぎた場合は、37万円になります。我々としましては、せっかくのこのキャンペーンを無駄にしないよう、ぜひとも30分以内のお支払いをお勧め致します。その場合は8万円ですので」
キャンペーン期間を儲けることは重要だ。
更にその期間は、カモが登録した時間の1時間後に設定する必要がある。
なぜなら、カモを精神的に追い詰め、焦らせ、動かさなければならないから。
もう時間はない、考える暇はない、早く早く早く!!!
追い立て、急かし、周囲に相談させる時間を与えない。
我に返り、冷静になって、頭で考える余裕を与えない。
そのための、『キャンペーン期間』。
『いや、だからさぁ、別にいーんだって、37万で。払う払う、余裕で払うよー』
なのにこの間抜けな男は、キャンペーンに反応しない。
頭が弱いのか、裕福なのか、謎だ。
いや、恐らく馬鹿なんだろう。
最初のコメントを投稿しよう!