詐欺師

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  すぐに違和感を覚えた。さっきのガキとは明らかに声が違う。 訝る数秒の間の沈黙を破ったのは、向こうだった。 『あのさー、たった今弟から聞いたんだけど、あいつ俺のスマホ使ってアダルトサイトに登録したんだってー?』 「あ、はい。左様にございます。このスマホのIDは、あなた様のものなのですね?」 左様にございますなんて日本語、普段は絶対使わないが、ここではすんなり口をつく。 訓練の賜物だ。 しかしなるほど、持ち主は兄貴だったのか。ますます間抜けなガキだ。 『あいつやるよなー! まだ中2だぞ、中2! あ、でもそうか、俺らの頃も大体そんくらいでそんな話題に興奮してたんだっけ?』 「はあ。ところでお客様。弟様からお話は……」 『あー! 全部聞いた全部聞いた! キャンペーンの期限もうヤバイだろ!』 「はいお客様。しかし我々もお客様の御都合を配慮致しまして、少しなら期限を先延ばしすることが可能でございます」 『そーなの?』 「はい。今回の場合、登録されたのが未成年の方でありますので、30分の先延ばしにさせて頂きます」 『30分ね。でもま、別にいーや。いーよ期限切れで! 払う払う、いくらだっけ?』 「はいお客様、もしも30分以内のキャンペーン期間を過ぎた場合は、37万円になります。我々としましては、せっかくのこのキャンペーンを無駄にしないよう、ぜひとも30分以内のお支払いをお勧め致します。その場合は8万円ですので」 キャンペーン期間を儲けることは重要だ。 更にその期間は、カモが登録した時間の1時間後に設定する必要がある。 なぜなら、カモを精神的に追い詰め、焦らせ、動かさなければならないから。 もう時間はない、考える暇はない、早く早く早く!!! 追い立て、急かし、周囲に相談させる時間を与えない。 我に返り、冷静になって、頭で考える余裕を与えない。 そのための、『キャンペーン期間』。 『いや、だからさぁ、別にいーんだって、37万で。払う払う、余裕で払うよー』 なのにこの間抜けな男は、キャンペーンに反応しない。 頭が弱いのか、裕福なのか、謎だ。 いや、恐らく馬鹿なんだろう。
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