5/8

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
休日の横浜はさすがに人も多く、改札を出た僕は、さてどこに行こうか、なんて考えることもなく、無意識に西口へと向かう人の波に混ざった。横浜と言えば西口。そんな当時の習慣が今もまだ残されていることに、階段の途中で気付き、嬉しやら、悲しいやら複雑な気持ちが押し寄せて、僕は一瞬立ち止まる。それでも人の波は止まることなく、僕を避けながら真っ直ぐに流れていくのを、「ああ」なんて小さく口にしながら、僕はしばらくその場で見ていた。 階段を登り切ると、ブルーシートで覆われた工事中の箇所が、真っ先に視線に入って来たため僕は、まだ工事終わらないかよ、と頬を緩ませた。休日のためか、工事自体は行われていない。すぐ近くで路上ライブを行っているらしく、ギターの音色が聞こえてくる。あの頃と変わっていない、馴染みのある風景だった。  「次の曲はオリジナルの曲で、『終わらないけど変わっていく』です。 目の前の若者がギターをかき鳴らす。僕と山下里海は拍手で応え、酔っ払いのサラリーマンが「知ってる曲弾いてくれよ」と叫ぶ。横浜駅西口、路上ライブの観客はこの三人だけだった。 「私、ほら、浜っ子だから」といつの間にかデートと言ったら横浜、というのが定番となっていて(そして僕は「『はまっこ』じゃなくて『ぱまっこ』だろ、と言うのも定番となっていた)その日も僕たちは、横浜で映画を見たり、買い物したりという時間を過ごした帰り道だった。二人とも路上ライブを聞くのが好き、というわけではなく、何となくまだ帰りたくないな、なんてことを二人で声に出さずとも思っていて、たまたま路上ライブをやっていたので、一緒に足を止めた、というだけだ。いつものように、改札付近で終電ぎりぎりまで話し込む、でも良かったのだけれど、その若者の歌声がなかなか良かったこともあり、1曲、2曲と聴いていた。それでもさすがに彼女は飽きてきたのか「終わらないって横浜駅の工事のことかな」と笑顔を僕に向け、話し掛けて来る。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加