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「え?横浜駅?工事?」 「そう。ここの工事、ずっとやってんだよ」 確かに今日も改札付近ではブルーシートで覆われている個所があった。 「ずっと、っていつか終わるでしょ?」 「終わるけどまた工事するんだよ、この駅は」と彼女は胸を張り、なんだか自慢のように言う。 「そんなに色んなところ壊れているのか?」 「違う違う」分かってないなーと口を尖らせて「常に進化するんだよ」パワーアップするんだよ、続ける。その子供っぽい言い方が、如何にも彼女らしくて僕は笑みをこぼす。 「駅、なのは変わらないけど、常に工事して進化するの。きっと100年後も工事してるんじゃないのかな?」 「そんなばかな」と応える僕に彼女は「いや絶対そう」と揺るぐことなく、「この歌も横浜駅のことを歌っているんでしょ」と歌っている若者に話し掛けていた。もちろん「その通りですよ」と返答されるはずがなく、イントロ中に「そんな歌じゃないですよ、というか聞いてくださいよ」と訴え、また続きを歌い始めようとする。が、酔っているサラリーマンも「これは横浜駅の歌なのかー」と彼女に賛同していて、僕と若者は困り果てていた。 その1年後、僕はその若者が歌っているところを一度だけテレビで見る。始めは気付かなかったが「それでは歌ってもらいましょう。デビュー曲、『終わらないけど変わっていく』です」と司会の人に紹介された時に「ああ、横浜の歌の人!」と思い出し、その日、その曲が恋愛ソングとも応援ソングとも取れる曲だということを初めて知った。決して横浜駅ソングではない。その曲はそれなりに売れたらしいが、2、3曲目と次第に売り上げが落ち、彼はいつの間にか見なくなった。
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